カメラカタログに見る用語解説集

戻る

 写真は技じゃないよ、腕だよ、というのがフォトグラファーの建前だが、最低限知っていないと恥ずかしいこともあるのが事実。特にカメラ好きの連中はわけもわからずに横文字を並べ立てるからたちが悪い。というわけでこの際、天下の銘機「ニコンF4」のカタログを見ながら解説いたしましょう。これで貴君も立派なカメラ通だ!いざいざ。

形式……「モーター内蔵35mm一眼レフレックス電子制御式フォーカルプレーンシャッターオートフォーカスカメラ」

 モーター内蔵、というのはフィルム巻き上げがモーターで自動的に行われるぞ、という意味。モーターが入っていてユーザーにもっとも分かり易いのはこの点だが、実はシャッターのセットなどにもモーターが使われているのだ。35mmというのは「猿写」でも解説したように135サイズのフィルムを使って24×36mmの撮影ができるという意味。
  一眼、というのはレンズを一本しか持たないという意味。
  これに対して二眼といえばレンズを2本持っているという意味だ。
  レフレックス、というのはレンズの像をミラーでファインダーに導いているということ。つまりコンパクトカメラやレンズ付きフィルムのように像を直接に見ないということだ。
  電子制御式、というのは非常に広い意味を持っているが、ここではカメラの機能をコンピュータで制御しているという意味にしておこう。反意語は「機械制御式」になる。
  フォーカルプレーンシャッター
、これは和訳すると焦点面シャッターという意味になる。普通の一眼レフカメラの裏蓋を開けるといきなりシャッターが見えるが、このいきなり見えるというのが焦点面シャッ夕一の焦点面シャッターたるゆえんである。このシャッター方式は多くの35mmカメラで採用されているが、この方式の利点としてはレンズ交換が容易であるということが挙げられる。システマチックかつ低価格なカメラシステムのためにはこのシャッターの搭載が欠かせない。
  反意語にレンズシャッターというのがあるが、これはレンズの中あるいはレンズの直後に置かれたシャッターであり、この方式によってレンズ交換を行うとレンズー本一本にシャッターを内蔵せねばならず、レンズの価格は高くなってしまう。ではレンズシャッターに利点はないのかといえばそうではなく、価格が安い、ストロボの全速同調が可能であるという理由で大中判カメラやコンパクトカメラに搭載されている。フォーカルプレーンシャッターはその性格上24×36m mなら24×36mmに、6×6cmなら6×6cmに作らねばならず、このことからも大中判カメラにあまり使われない理由がわかるであろう。
  オートフォーカス、というのはもうお分かりかと思うので割愛。カメラ、というのは「部屋」という意味。

露出制御……P(プログラムオート)・PH(高速プログラムオート)・S(シャッタースピード優先オート)・A(絞り優先オート)・M(マニュアル)


 露出という言葉はすでにご存じかと思う。ある一定の光量に対する等価なシャッター速度と絞りの組み含わせのことであった。
 この露出制御というのはその組み合わせをカメラ任せにする(P)・シャッター速度を任意に決め、絞りをカメラ任せにする(S)・絞り値を任意に決め、シャッター速度をカメラ任せにする(A)それぞれのモードがあるぞという意味である。
  ちなみに高速プログラムモードというのは通常のプログラムモードに比ぺてシャッタースピードが速めになるもので、動きの速い被写体に適している。

画面サイズ……24×35mm

 言わずと知れた135サイズの標準画面サイズ。パノラマ・ハーフ判ではなく普通のネガができる。

レンズマウント……ニコンFマウント

 レンズ交換式カメラのレンズを外すとレンズの根本・ボディーの開口部にはそれぞれ座金が見えるが、それらをレンズマウントと呼ぷ。マウントの役割には大きく2つあって、一つはレンズをボディーに確実に固定させ、なおかつ迅速に脱着させること、もうひとつはボディー・レンズ間の情報・動力の伝達である。オートフォーカスカメラのレンズの駆動や、絞りの電子化には近年の電子マウントが大きく貢献している。(EFマウントには機械的伝達部が全く無い)だがしかしこれも困り物で、そのためにメーカー間のレンズの互換性がほとんどなくなってしまった。一部レンズアダプターなるものが市販されてはいるが、ただ着くというだけでカメラ本来のAFや自動絞りは全く効かない。初心者の方はそのカメラメーカーのボディーにはそのメーカーのレンズしか着かないということを肝に銘じて戴きたい。カメラを落とすと、結構このマウントの部分がダメージを受けるので注意。これが曲がったり歪んだりすると正しいピントが得られない。(無限遠にピントが来なくなる)

交換レンズ……CPU内蔵AFニッコール:AFなどフル機能使用可 CPU内蔵Ai-Pニッコール:AFを除くフル機能使用可可Ai-s・Ai・改造Aiニッコール:露出モードはA・Mモード可(中略)F5.6≦でフォーカスエイド可(中略)従来(非Ai)レンズ:使用可能(絞り込み測光)

 随分長い表題になったが、これも前項に挙げたマウントの改良や電子化に伴う弊害である。要するにCPU内蔵AFニッコールとは現在のオートフォーカスカメラのために作られた最新式のレンズ。レンズ内部にマイコン(CPU)を内蔵してボディーとの情報のやりとりをすることによってオートフォーカス(AF)や全ての露出モードの利用を可能にしている。現在売られているレンズのほとんどがこの方式なのでまず間違いないだろう。

 CPU内蔵Ai-Pニッコール。この説明のためにはまずAiとは何かという話から始めなければならないのだが、これはニコンが開放測光(注1)をより洗練された方法で行うために開発した方式である。Ai以前のニッコールレンズはその開放絞り信号を連動爪で伝えていたが、Ai機構の採用によりこれを廃してよりスマートなカメラが作られるようになった。ニコンFEや同ニコマートELW等がその先駆けだったように記憶している(?)。まあ要するにニコンマニュアルレンズの標準規格である。さて、このAi-PニッコールはマニュアルレンズでありながらCPUを内蔵した異色の存在である。つまりCPU内蔵AFニッコールのAF以外の全ての機能が使用できるわけである。Aiニッコール500ミリF4Pがこれに当たるが、そろそろこの辺りのレンズもAF化されそうな雰囲気ではある。Ai-S、Ai、改造Aiニッコールは、ごくごく普通のマニュアルレンズであるので、このF4ボディーに装着した場合には十分な機能を発揮できない。つまり、ビントはマニュアル専用になるし、露出モードはAとMしか使用できない。これは他のニコンAFボディーについても同様である。(一部完全にCPUに依存しているボディーもあるやに聞く。(F401x以降の中級・初級機その場合、装着は可能でも測光関係が作動しないため露出は単体露出計を使用のマニュアルになると思われるので、各自確認のこと《最近のカメラは良く分からん!》)
  F5.6≦でフォーカスエイド可というのはつまりF5.6以上の暗いレンズではオートフォーカスのセンサーが反応しないということ。AFレンズでもテレコンバータや色の濃いフィルターを使った場合にはAFにならないことがあるのだ。ちなみにフォーカスエイドというのはAF以前のピント合わせの方式で、センサーを利用して合焦を確認する方式である。
  従来方式
、というのはAi方式でもAFレンズでもない初代FやF2・旧ニコマート用のレンズである。絞りリングのF5.6の位置に爪が付いており、これをファインダー下部より出るピンに噛み合わせて使う。これをAi対応に改造したものが改造Aiレンズである。当然現代のボディーはこれに対応していないので絞り込み測光になる。

注1)開放測光……絞りを開けば明るくなるし、絞り込めば暗くなるのは道理。つまり、大昔にはF2.8のレンズを使っていても露出を測るときにはその目的とする絞りまで絞り込まねばならなかった。例えばスクリューマウント(瓶の蓋のようにネジ込む形のマウント)のために開放測光で他社に後れを取ったペンタックスSPなどは、露出を測ろうとするたびにスイッチを入れて絞りを絞り込んでやらねばならなかった。これはその度にファインダーが暗くなってしまうためにすこぶる不便であった。これを解消するためには絞りリングの動きを読み取って、実際にレンズを絞り込まなくても撮影時の絞りが露出計に伝わる「開放測光機構」の搭載が唯一の手段である。ニコンははじめ連動爪、後にAi方式によって開放測光を可能にした。これらの機構はボディーに各レンズの開放絞り値を伝達する働きを持ち、ボディーはその開放の位置からのリングの移動量で実際の絞りを割り出す。

ファインダー……アイレベル式マルチフォトミックファインダー標準装備、ハイアイポイント仕様、視度調節機構内蔵、ホットシュー、ファインダースクリーン補正ダイヤル、アイピースシャッター付(中略)交換可能

ニコンカメラの説明書は長ったらしくて困るが、順番に解き明かしてゆこう。

 アイレベル式、というのはごくごく一般的なファインダーのことで、目の位置にカメラを構えて真っすぐ覗くことのできるファインダーである。
  これに対してウエストレベルファインダーというのかあるが、これは真上から覗くタイプのもので、ローアングルや接写・複写に便利だ。
  マルチフォトミックファインダー
というのはニコンの商品名で、このフォトミックというのは露出計を内蔵したファインダーに付けられる総称。これにマルチ、が付いて3種類の測光モードが選べるぞ、という話である。
 ハイアイポイントというのはファインダーが作る被写体の像が普通のファインダーより手前にできるという意味。これによってファインダーから少々目を離しても見やすくなっている。視度補正というのはファインダーを近視の人にも遠視の人にも見易くするためのものだ。ファインダーの像は大体手前から1メートル前後のところに作られるが、近視にはこれを手前に近づけてやり、遠視には逆に遠ざけるわけだ。視度の単位にDp(ディオプトリー)というのがあるが、大体通常のファインダーは1Dp程度になっており、近視には−補正、遠視には十補正を掛けると見やすくなる。ファインダーがどうも見にくいという向きにはぜひ視度補正レンズをおすすめする。まあこのF4くらいのカメラになると内蔵されているものだが……。
  ホットシューというのは、カメラの上についているストロボを付けるところ。F4の場合、ファインダー交換によってこれが無くなる場合もあるので注意だ。クラシックカメラなどでは、シューはあるのにストロボの接点が付いていないものもある。この場合はアクセサリーシュー、あるいは単にシューと呼ぶ。「ホット」にはストロボ接点のある、という意味が含まれているのだ。しかし、「熱い足(hot shoe)」って一体……ファインダースクリーン補正ダイヤル、というのもニコン独特のものである。
  ファインダースクリーン
とは、被写体の像を映し出すためのスリガラスのようなもので、レンズを外してミラーの上を覗けば見ることができる。これを用途に応じて交換できるのが高級一眼レフカメラの真骨頂なのだが、これが曲者。F4ではこのスクリーンの上部に測光センサーを持っているため、そのスクリーンの透過率によっては正しい露出が得られない場合があるのである。この露出のズレを補正するためにあるのがこのダイヤルなのだ。
  アイピースシャッターというのはファインダー接眼レンズについているシャッターである。キヤノンF-1やEOS1N、ニコンF3、F4そしてF5などの高級機に主に付いているものだ。これはファインダー側からの入射光によって露出が狂わないようにするためのものである。たとえば三脚にカメラを固定して構図を決め、レリーズでシャッターを切る場合にファインダーをいちいち覗かないことは往々にしてあるが、このような場合にファインダーから入る光によって露出か狂うことが良くあるのだ。特に強い光が入るような場合にはアンダーにされてしまう。そういうときにはこのシャッターを閉じる。これか無いカメラの場合には別にキャップが用意されている場合もあるので各自説明書を参照のこと。それも無いとなれば、手でふさげ。(α-8700iのストラップに付いている黒いアレはそのためのものだ。)
 なお、 ニコンのFヒトケタシリーズはファインダーを交換できる。F4にはファインダーから5−6cm目を離しても像が見えるアクションファインダー、上から覗けるウエストレベル、6倍のサイズの像でピント合わせが楽な高倍率、の標準装備品を含めて4種類のファインダーが用意されている。

アイポイント……約22mm(保護ガラスより、-1.0Dpのとき)

 前項で説明したように、これが長いほどファインダーから目を離しても見易くなる。Dpとは視度を表す単位で、ディオプトリーと読む。これが小さくなるほど近視、大きくなるほど遠視向けと言うことができる。ハイアイポイントファインダーというのはこれが特に長く作られているのだ。

ファインダースクリーン……専用B型クリアマットスクリーン2、測距ゾーン付き、他12種と交換可能

 前述したように、これを罫線入りや望遠レンズ用に替えることによって自分好みのファインダーにすることができる。
  測距ゾーンとはファインダーの真ん中につけられたAFセンサーの範囲を示す[  ]のことで.別にこれがないからといってAFが作動しないわけではない。まあ普通に使っているかぎりは交換する必要もないが、真ん中のプリズムやスプリットが邪魔だという通の方は是非交換してみては……。

ファインダー視野率……約100%(対実画面)

 これが100%あるカメラは一部の高級機のみである。フィルムの24×36ミリの範囲とファインダーの見える範囲が全く一致する場合にこれを視野率100%のファインダーと呼ぶのだが、これを達成するためには十分なボディー精度とサイズが必要なため、なかなか普及機には搭載できないスペックである。ちなみにF90の視野率は92%、F50Dパノラマでは90%しかない。だが実際には一般ユーザーは同時プリントしかしないためこのくらいで十分なのである。(オートプリンターのネガキャリアが若干小さめに出来ているため。スライドのマウントもまたしかり)むしろ視野率110%だとかのファインダーの方がたちが悪いと言うべきだろう。なにしろ写っているはずのものが写っていないことになるのだから。コンパクトカメラやレンジファインダーカメラでは、気をつけていないとそういう事が起きる事がある。

ファインダー倍率……約0.75倍(50mmレンズ、∞、一1.0Dp)

 ファインダーの像が肉眼で見たときと比べてどのくらいの大きさになるかを表している。これが大きい方が一般的には見易いファインダーであると言える。コンパクトカメラではこれが0.5倍程度のものが多く、非常に見にくい。またこの数値はどのカメラでも条件を同じくして比較しないと意味がなく、一般的には50ミリレンズを付けて無限大の被写体を見たときの倍率で表示されている。

ファインダー内表示(イルミネーター付き)……[図を参照]

 実に様々な表示があることがわかるだろう。これが充実しているほうが撮影時にいちいちカメラの上面を見て確認する必要もなくて便利だ。しかし、せめてどんなカメラでもファインダーの中でフィルム枚数が確認できるようにはならないものか。簡単に作れそうなものだが……。(だが昔の癖でコンタックスSTを使っていてもついボディ側の液晶を見てしまう筆者)

 

ミラー……クィックリターン式

 1954年に発表されたアサヒフレックス2型が国産カメラで初めてこの機構を搭載した。一眼レフカメラにおいてはレンズ1本でフィルム面とファインダーをまかなっているためミラーが欠かせないが、このミラーが撮影のために跳ね上がった後すぐに復元するようになっているのがこのクイックリターン式である。今でこそ当り前だが、当時は革命的な出来事であった。なお、現代においてもハッセルブラッドやゼンザブロニカ等の中判カメラのミラーにクイックリターンしないものがある。(次のコマへと巻き上げる時の動力を使ってミラーをはね上げるので、撮影の直後はファインダーがひたすら真っ暗となっている)

レンズ絞り……瞬間復元式、プレビューボタン付き

 開放測光は実にありがたいものだが、時にはファインダーで絞り込まれた像を見て確認しなければならないことも起こる。高級機にはそのために「プレビューボタン」を設けてその用を果たしている。
  また瞬間復元式とは又の名を自動絞りといい、撮影する瞬間だけ所定の絞りまで絞り込まれ、またすぐに開放絞りまで戻るものである。この機構は開放測光とともに発展したもので、それ以前にはプリセット絞り(図参照)というものが使われていた。これは絞りリングを2つ設けたもので、一つのリングにはクリックを設け、もう片方はフリーに回転するようになっている。使用する際にはクリックのあるほうを撮影時の絞りにセットし、フリーの方を回転させて開放の像を見る。(絞りはフリーに従って動く)そして撮影するときにフリーのほうをクリックの方に合わせれば正確に一定の絞りで撮影できるというわけである。

ピント検出……TTL位相差検出方式、ニコンアドバンスAM200センサーにより検出

 ちょうどマニュアルカメラのスプリットを電子化したような機構であるこの位相差方式。まずセンサーに2つの受光部を設け、それぞれにレンズの別の部分からの光線が入射するようにさせる。この方式によればピントが合っているときには2つのセンサーに同じ状態で光線が入ってくるが、焦点が前後すると入射する光が入れ替わるので、同じ状態のところを電気的に検索してレンズを駆動すればピントが合うというわけである。オートフォーカスにも様々な原理のものがあり、主なものにはソナー方式(超音波を使用)、赤外線アクティブ方式(赤外線を投射し、三角測量の要領で測距)などがあるが、このTTL位相差方式は様々なレンズを交換して使う一眼レフカメラに最適のものであろう。尚、ニコンアドバンスAM200センサーとは商品名。キヤノンはBASIS、ペンタックスはSAFOXと呼んでいる。

測距可能範囲……EV1〜EVl8(IS0100、20℃)

 AFセンサーが作動可能な明るさの範囲。EVとは明るさの単位で、絞りF1、シャッター1秒の時をE∨0としたものである。ちなみみにEV-1とはFl.4で4秒の明るさで、E∨18とはF16でl/1000秒の明るさである。(EVとは露出に関係なく明るさのみを表すものなのでこの数値は各々1つではない。F22のl/500秒もEV18である。)ちなみにEVとはexposure valueの略。

レンズサーボ……シングルAFサーボ(S)モード、コンティニュアスAFサーボ(C)モードおよびマニュアル(M)

 シングルAFとは被写体の動きに関係なくレンズを駆動し、一回ピントが決まったらそこで固定してしまう方式。
  コンティニュアスAF
とは動いている被写体のピントを追い続ける方式。
  マニュアルとは言わずと知れた手動式である。

フォーカスロック……フォーカスロックボタン、またはシングルAFサーボにより可能(ダブルロックレバー使用時には同時にAEロック)

 おなじみの事だろうが、AFカメラではシャッターボタンを半分押し込んでピントを合わせる。その際、フォーカスが合う範囲(フォーカスエリア)は画面中央にあるためそのままの構図では撮影できないことが多い。ここでフォーカスロックを使うのであるが、その方法はどのカメラでも大体共通しており、半押し状態をキープしたまま構図を決めるのが一般的である。しかし、AFモードがコンティニュアスの場合には別に設けられたフォーカスロック専用ボタンを押さなければならない。この方法は機種によってまちまちなので説明書を参照のこと。F4においてはフォーカスロックボタンにAEロックを兼ねさせるためにダブルロックレバーなるものが付いている。

測光方式……TTLマルチパターン測光/TTL中央重点測光/TTLスポット測光切り替え可能

 何しろ露出が決まらないと写真が撮れないから、カメラには当然露出計が内蔵されている。
  測光方式とはその方法として画面のどの部分の露出を測るかということである。ところでTTLとはthrough the lensの略で、実際に撮影レンズを通した光の量を測る方式であり、非常に合理的な方式として1964年発売のトプコンスーパーDM以来35ミリー眼レフカメラの楳準装備となった。これ以前の露出計はカメラに内蔵されていてもレンズとは別のところに受光窓を持ったもので、レンズの交換に対応出来ず、接写や色付きフィルター使用の場合などには露出倍数(注2)を自分で補正しなければならなかった。

 さて、それでは各測光方式の話に移りたい。被写体は一色であるとは限らないし、風景写真などには空あり地面ありで様々な反射率のものが一つのフレームに混在している。カメラに内蔵されている反射光式露出計は大体どんな被写体を狙っても適正な露出が得られるように18%グレーを基準にして作られている(猿写参照)が、これは空を大きく取り込んだ構図や陰影の強い構図、あるいは真っ白なものや真っ黒なものに対しては露出を自分で補正しなければならない。

 このニコンF4にはその露出補正の手間を省き、より客観的な露出を得るために「マルチパターン測光」が搭載されている。これは画面全体を5つのブロックに分けて測光し(上図)、それぞれのデータをコンピュータで演算して適正露出を求めるものである。例えば2・3・4・5のエリアが真っ暗で、1のエリアが明るいとなればスポットライトが当たっている被写体だと判断して1の部分の適正露出を出すし、2・3が明るくて他が中庸だとなれば2・3は空だということにして他のエリアに対する適正露出を出す。これはニコンFA以来の伝統であり、現在のオートフォーカスカメラの全てに搭載されている。また近頃ではより正確を期すためにエリアの数も大幅に増えてきている。また最新型のニコンF5には、さらに被写体の色を読むRGBセンサーも内蔵されている。これは輝度の高い黄、緑、赤などが従来の測光でアンダーにされてしまうことに対する対策であるが、それでも真っ白・真っ黒には効果がない。(無彩色ではRGB全てが同じレベルになってしまうため、単なる明るいもの、暗いものとして認識してしまう)

 中央部重点測光は、ファインダー内の中央にある12ミリの円を重点的に測光する方式である。またスポット測光はそれをさらに狭めて中央5ミリの円内のみを測光する。これらのモードになると露出補正は完全にユーザーの勘になるが、どこを測っているのか分からないマルチパターンを嫌うプロや高級アマチュアはこればかり使う。皆さんは立場上真っ白いシャツや真っ黒の学生服の人を撮ることが多いと思うが、その際にはぜひスポット測光で顔面の露出を測り、その露出で撮ってみて欲しい。平均測光やマルチパターン測光では露出が狂いやすい条件であるから。また、空を大きく取り込んだ場合には地面のなるべく二ュートラルな色の部分(アスファルトや土など)をスポットで測るのもよい。

(注2)露出倍数……色の濃いフィルターを使ったり、接写のために中間リングやベローズでレンズを極端に繰り出すとフィルム面に届く光の量が減少する。この数値はフィルターのケースやベローズの説明書に記載されていると思うが、つまり露出を何倍かけなければならないかという意味である。例えば露出倍数4と言った場合にはフィルム面に最く光の量は1/4になっているため、4倍の露出(2段分)をかけなければならない。TTL方式によればこの補正が不要になる。

測光範囲……EV0〜21(IS0100、Fl.4レンズ)ただしスポット測光はEV2〜21、マルチパターン測光時の制御範囲はEV0〜161/3

 測距可能範囲の項で話した明るさの制約がここにもある。要するにこの範囲を超えると露出計がお休みしてしまうのだ。この範囲を超えるほど明るい場合は殆どないので心配ないが、薄暗い場合には結構不便なこともある。その時は勘に頼るほかない。

露出計連動……CPU連動方式、Ai方式併用、Ai連動レバーはね上げ可能

 開放測光を行うために必要な絞り値をどのようにしてボディーに伝えているかという話。F4では2つの方式を併用しているため、現行AFレンズとMFレンズの全てに対して露出計が連動するようになっている.これがCPU連動方式のみになっているカメラだとAFレンズまたはAi-Pレンズしか使用できない。Ai連動レバーはね上げ、というのはAi以前のレンズをAi対応マウントに取りつけようとするとAi連動ピンが引っ掛かってしまうが、これを防ぐためにピンを跳ね上げられるようになっている機構を指す。

フィルム感度設定……DX方式、マニュアルのいずれも可能、但しマニュアル優先、DXモードでDX以外のフィルム装てん時は外部LEDの点滅とともにレリーズロック

 カメラに内蔵されている露出計の感度をどのようにして設定するかという話。DX方式とは1983年に米国イーストマン・コダック社が提唱した方式で、パトローネの脇腹に描いた黒と銀の模様を使ってフィルムの感度や露光寛容度(ラチチュードlatitude)、また撮影枚数をカメラに検知させようとするものである。黒の部分は電気が導通せず、銀の部分では導通することを利用してパトローネ室に設けられた電気接点でこのパターンの分布を検知、認識しているのだ。この方式によってフィルム感度の設定ミスが激滅し、一般ユーザーにとっての写真アレルギーの緩和が図られた功績は大きい。しかし、フィルムをその固有の感度で撮影するときはそれで良いのだが、増感/減感やリバーサルフィルムの各乳剤固有の感度の偏りを捕正する場合、あるいはDXコードのない特殊フィルム(コダックテクニカルパン、フジミニコピーなど)を使用する場合には感度をマニュアルで設定する必要がある。そのため、高級機には感度のマニュアル設定機能が残されているのだが、初心者向けのカメラにはこれがないために非常に困る。
  DXコードのないフィルム使用時にはレリーズロック、というのは感度が分からなくて写真か撮れるか!というF4の良心であり、非常に親切だ。他の機種でDXコードのないフィルムを装填した場合には勝手にISO100に設定されてしまうことが多い。

フィルム感度連動範囲……DX時:lS025〜5000 マニュアル時:lS06〜6400

 前項の「フィルム感度設定」によって実際に設定できるISO感度の範囲である。

シャッター……電子制御上下走行式フォーカルプレーンシャッター、シャッターバランサー付き

 電子制御というのはシャッターがゼンマイ仕掛けの機械式でなしに電子部品の組み合わせによって秒時制御されている方式。正確さでは機械式より有利であるが、電池がなくなってしまえばただの幕だ。上下走行式、というのはシャッター幕が135サイズの画面に対して短辺方向に走る方式。長辺方向に走るより距離が短くて済むために高速なシャッター速度が得られる。また、Xシンクロスピードも向上できる。現在の1/250秒シンクロも上下走行式あってのものなのだ。ニコンF3の横走りシャッターのシンクロ速度が1/80秒であった事を考えると上下走行式の優位性が分かるであろう。ちなみに上下走行式のシンクロ最高速度はミノルタα-9の1/300秒、横走り式のそれはこれまたミノルタX1の1/200秒である。シャッターバランサーとはシャッター幕の走行と同時にその進行方向とは逆に動く重りのようなものである。これにより慣性によるブレが軽減されるのであるが、しかしもともと重いカメラなのだからべつに関係ないと筆者は思うのだが。軽量なカメラにこそこういった機構が必要だと思う。

シャッタースピード……S・Mモード時:T、B(Mモード)、4〜l/8000秒(1EVステップ)、X(l/250秒、ロック付)但しTはメカニカル制御 P、Aモード時:30〜l/8000秒


 シャッタースピードの選択範囲。シャッター速度を任意に設定するモードの際にはシャッターダイヤルに刻まれた範囲で1段(EV)単位で設定できる。もっともこの方式も時代遅れになりつつあり、現在では液晶を見ながらシャッターも半段、あるいは1/3段単位で設定できるものが増えている。ニコンF5もその例に漏れないのであるが、この方がはるかに合理的であるといえよう。絞りでは昔から半段や1/3段が出来たのであるからシャッターのみが大ざっばな1段単位では不便である。露出を細かく段階的にバラさねばならない場合に、絞りを使うと被写界深度まで変わってしまうものだが、シャッターで細かい段階が切れればそれに越したことはない。またどうしても最小絞りで撮影したい場合においてもシャッター速度が1段単位だった為に絞りでその端数を補わねばならない場合もままあった。
 尚、P、Aモードにおいてはシャッター速度は無段階で制御されている。無段階ができるのにSやMでそれが使えないのはシャッターダイヤルの限界である。(バカでかいシャッターダイヤルを付けたなら……?)また、Bとは「バルブ bulb」の略で、シャッターボタンを押している間じゅうシャッターが開くというモードだ。T「タイム time」も似たようなものでシャッターを開きっばなしにさせるのだが、これは一回シャッ夕一ボタンを押しただけで開放され、また閉じるときにはシャッターダイヤルを他の位置に回す。いずれも天体写真や夜景などの場含に用いられる。

シンクロ同調……X接点のみ、1/250秒以下でスピードライトに同調(中略)TTL自動調光時のフィルム感度連動範囲はlS025〜1000)

 ストロボを使う際のシャッター速度の話である。ストロボは大変に短い閃光時間を持っているために(約1/10000秒〜l/500秒、光量によって異なるが光量を絞るほど短くなる)シャッターが全開になった瞬間に発光させねばならない。シャッター幕の幕速(シャッター速度とは無関係)が早いほどシンクロ可能なシャッター速度は上がるのだが、難しい話はさておいて要するにニコンF4、このカメラではストロボを使うときには1/250秒以下のシャッターを使いなさいよ、という話なのだ。これはカメラによって違っていて、1/60のカメラもあれば1/125のカメラもある。もし間違って1/60のカメラで1/125に設定してストロポ撮影を行うと画面の半分が写らないという現象が起きる。これは先述のとおり、シャッターが全開でないのにストロボが光ってしまったための失敗である。ストロボを使う際には各自のカメラの説明書を参照の上、正しいシャッター速度で使うこと。これがストロボ撮影成功の第一歩である。そのカメラ専用のストロボを使えば失敗はまずないだろうが。
 X接点とはストロボを使うために設けられたシンクロ接点の名称である。その他にFP級と言うフラッシュバルブの為のFP接点、M級バルブ用のM接点というのもあるがほとんど使われず、現在のカメラはX接点のみを装備したものが多い。またニコンはストロボのことを「スピードライト」と呼ぷ。確かキヤノンもそうで、ミノルタは「フラッシュ」と呼ぶ。これはもともと「ストロボ」というのがストロボリサーチ社の商品名であることからそうなったのだ。「ストロポ」は正式名称ではなく、正式にはelectronic flashまたはspeedlightなのだ。まあストロボで通っているので誰もがそう呼ぷのだが。

 TTL自動調光というのはストロボ撮影の際にレンズを通ってくる光を直接シャッターが開いている間じゅう測光し、その量が規定の露出になればストロボの発光を止めるというものだ。ストロボ部にそうしたセンサーを持つ「外光オート」に比べて精度が高い。これを「ダイレクト測光」とも呼ぷ。この機構は各々のカメラに指定されたストロボでしか利用できず、使用できるフィルムの感度の範囲も上のように限られている。

アクセサリーシュー……ホットシュー(フラッシュ接点、モニター接点、TTL調光用接点、レディライト用接点付き)
 

 カメラの上についているストロボを乗せるアレである。現在のカメラにはそこに3−5個の接点が付いていることが多いが、それはカメラとの連携性を高めるためにX接点のみならず、TTL調光の信号、充電完了の信号、フィルム感度の信号などの接点を備えているためだ。そのため、これらの接点を備えたメーカー指定のストロボを使えば極めて簡単に使いこなすことができる。多くのカメラはこの組み合わせにより、プログラムオートのまま高度なテクニックを使うことができるのだ。

 しかしこれらの接点にはメーカー間の互換性がなく、レンズと同じような状況になってしまっている。だが汎用ストロボメーカー(サンパック)の製品にはメーカー固有の機能に対応したものも多い。(下に例を掲げる)

 

シンクロターミナル……JIS-B型ソケット、はずれ防止ねじ付

 一部のカメラには、ホットシューとは別にストロボ用の接点(シンクロターミナル)が設けられている。これはスタジオ用大型ストロボ等を使うためのものだ。(写真はニコンF3のもの)最近の初級者モデルには省略されていることが多いが、プロフェッショナルにとっては絶対に欠かせないものだ。キヤノンのT90にはこれが装備されておらず、メーカーの予想に反してこのカメラがスタジオで使われることが多かったことからプロサービス部門で慌ててペンタプリズム部に穴を開けてこれを装着するということも起こった。外れ防止ネジというのはこの根本にネジを切ってあるもので、それに対応した専用のシンクロコードを使えば抜ける心配なしに使う事ができる。

セルフタイマー……電子制御式、作動時間約10秒

 レリーズしてから間を置いてシャッターが切れる機構。「ジーッ」と音がしてからシャッターが切れる昔のセルフタイマーは今やほとんど見られず、電子タイマーのものがほとんどを占めるようになった。まあ少し味気無い気もするが中古カメラでこの機械式セルフタイマーが壊れているものをしばしば目にする現状から言えば信頼性の高い機構と言えるだろう。(ニコンFMの機械式セルフタイマー)

 また、EOS-1などでは作動時間を2秒、10秒と選択できるが、この2秒のセルフタイマーはカメラを三脚に乗せてスローシャッターを切るときに使用するとカメラブレが防げて便利だ。機械式のものでもレバーを押し切らずに途中の位置から使用すればある程度作動時間を調節できるものがあるのでお試しあれ。

露出補正……士2EV捕正可能(1/3EVステップ)、補正中はファインダー内に補正表示マーク、及び補正量を表示

 自動露出(AE)使用時にカメラの出た目(何もせずに指示された露出)を補正する機構。露出補正を使う場含については「猿写」にて解説しておいたので割愛。1/3EVステップというのはその名のとおりのこと。1/2EVステップのカメラもあるが、人それぞれによって好みが分かれるところだ。1/2では大ざっぱすぎる、また1/3では細かすぎるという意見が多く、近ごろの最高級機と呼ばれるカメラではこれが選べるようになっている。(キヤノンEOS-1、ニコンF5)露出補正中の警告機能も重要なポイントだ。すすんで露出補正しようと思っているときはよいが、不用意にこれが入ってしまうときもあり、それが分かり易くなければ「いい」カメラとは呼べないのではないか。

AEロック……AEロックボタンによるBVメモリー方式

 前述のようにAEロックとは、ここの露出で撮りたい!と云ったときにその露出をカメラに記憶させ、あとはどのような構図になってもその露出で撮り続けられるという機構である。図(オリンパスOM4Tiのカタログより転載)ではモデルの顔面の露出をスポット測光した後にAEロックしている。これをAEロック無しに平均、あるいはマルチパターン測光で撮った場合にはどうなるか各自考えてみて欲しい。その辺りの操作方法はカメラによって異なるので各自説明書を参照のこと。またスポット測光が付いていないカメラにおいても平均測光のまま、その測りたい被写体に近づいて測れば同じことなので試されたい。

 BVメモリーとはカメラがロックした露出を単に絞り値とシャッター速度の数値として記憶するのではなしに光の量そのものとして記憶する方式。この方式によればAEロックした後に絞り、あるいはシャッター速度を変更してもそれに対応する適正な露出が得られるのだ。

プレビュー……プレビューボタンにより絞り込み可能(後略)

 開放測光のカメラにおいてファインダーの像は常に開放状態のものを見ることになる。しかしこれでは実際の撮影時の被写界深度を確認することができないため、このボタンによって実際の絞り値まで絞り込むのだ(あらかじめ見る=preview)。像が暗くなって見にくいものだが、大体のあたりはつかめる。この機能は絞りを優先する露出モード、すなわちマニュアル、絞り優先モードでしか使用できないカメラがほとんどである。(というか、あるのだろうか?)プログラムオート、あるいはシャッター速度優先オートの際には使用できないので注意。

ミラーアップ……ミラーアップレバーにより可能

 一眼レフカメラにミラーが欠かせないのは先刻ご承知のとおり。このミラーが撮影時に跳ね上がってフィルム面に光を導くのであるが、この跳ね上がる動きさえも避けねばならない場面がある。スローシャッターや極端な接写の場合がこれに当たるのであるが、これをファインダーを犠牲にしてミラーをあらかじめ跳ね上げておく機構がこのミラーアップである。構図を決めてからミラーアップ、そして外付けレリーズを使用という面倒なことになるのであるが、ブレ防止に万全を期さねばならない時の必須機構である。

フィルム装てん……順巻き式イージーローディング、レリーズボタン操作によりフィルムカウント1まで自動空送り(シャッター、ミラーは不作動)

 順巻き式というのはフィルムの乳剤面を内側にカメラ側のスプールに巻き付けてゆく方式である。これをニコンF3などではスプロケットとの噛み合わせをより強くするために乳剤面を外側にする逆巻き方式をとっている。イージーローディング、というのはフィルムの先端をスプールに差し込まなくても送られてゆく方式で、当初はコンパクトカメラのための機能だったがその確実性が増すとともに一眼レフカメラにも採り入れられた。この操作としてフィルム先端部を所定の位置に置いて裏蓋を閉じるだけでよいものと、その後で一回シャッターボタンを押さねばならないものがあるが、F4は後者である。この際にシャッターやミラーが動かないことの利点は、ストロボ使用時に不用意な発光を避けることができるという点にある。

フィルム巻き上げ……内蔵モーターによる自動巻き上げ、S、CH、CL、Csの切り替え可能(後略)

 F4を始め現在の一眼レフカメラの多くが内部にモーターを内蔵し、自動巻き上げを可能としている。別に1秒間に4コマも5コマも切る必要はなくともやはりこれは便利である。手勤巻き上げ式のカメラの場合、ファインダーを覗きながら巻き上げるとどうしても微妙に構図が狂ったりピントリングに気が回らなくなったりするものだ。
  さてこのSとかCの意味だが、Sはsingleの略で一コマ巻き上げ、Cはcontinuousの略で連続巻き上げということだ。Cの後に付くHはhigh speed、Lはlow‐speed、Sはsilentと云う意味で、その名のとおりの意味である。このF4ではH時に4コマ/秒(F4S、F4Eでは5.7コマ/秒)、L時に3.3コマ/秒(同じく3.4コマ/秒)、S時に0.8コマ/秒(同じく時1コマ/秒)の巻き上げができる。ちなみにこれらはシャッター速度が1/125秒以上の時の値であり、これより低速なシャッターを使えば当然それなりに巻き上げ速度は低下する。まあ高速で巻き上げられるのが高級機のイバリの部分なのだろうが、例のニコンF5。あのデカさは何とかならないものだろうか。F4やEOS一1はハイパワーバッテリーパックやパワードライブブースター(要するにカメラの下の部分)を取り外せば小さくできるのにF5のアノ部分は固定式。あれでは中判カメラ並みの重量だし、そもそも5コマ/秒のスペックを絶対に必要としているユーザーはどのくらいいるだろうか。閑話休題。SやCの表示はメーカーや機種によって違うのでその点は各自で研究して欲しい。また、CモードであってもAF使用時には巻き上げ速度が低下するカメラが多いのでこれも注意だ。そのカメラで最大の巻き上げ速度を望むならピントはMモードにしたい。(F5にはそれがない。やっぱりただデ力いだけじやないのね)

外部警告LED……DX警告、シーケンスエラー警告、フィルム終端表示、フィルム巻戻し表示と警告

 F4、F5に独特なこの機構。外部に液晶表示部を持たないF4には特に必要なものと言えるだろう。DX警告とはフィルムの感度設定をDXコードにした状態でDXコードのないフィルムを装填したときに出る警告。感度が分からなければどうしようもないのだ。シーケンスエラーとはカメラの駆動系に異常が発生したときの警告。フィルム終端表示とはその名のとおり。フィルム巻戻し表示と警告というのは巻戻し中を知らせて間違って裏蓋を開けてしまうのを防ぐものだ。

フィルムカウンター……LCD(液晶)によるファィンダー内デジタル表示及ぴ外部メカニカルフィルムカウンタ表示

 言わずと知れたフィルムカウンター。このF4はファインダー内部でもフィルムカウンターが見られるので非常に便利だ。前にも書いたが連写の最中などにいちいち外部のフィルムカウンターを見るのは煩わしい。中級機以下には装備されていない機能であるが、ぜひどのカメラにも付けて欲しいものだ。〈スペースがないか…)それはさておき、メカニカルフィルムカウンターというのはカメラの内部に設けた円盤上にE〜36までの数字を書き込み、それをフィルムが1駒進むごとに回転させてゆく方式である。電源の状況によっては表示が消えてしまう液晶式に比べて優れているといってよい。またこのカウンターが巻戻しの際に減算されてゆく方式だと今どこまでフィルムが巻き戻っているか分かるため、うまくすればフィルムのベロを残すことができる。(ペンタックスLXなど〉ライカの昔のモデルなどでは、その円盤がボディー外に露出しておりしかもそれが裏蓋を開けても「E」に戻らなかった。現在の様に自動的に復元するカウンターは「自勤復元式」と呼ばれ、開発当時は画期的だったのである。

  写真はライカMPのもの。通常のレバー式フィルム巻き上げに加え、ボディー底部にトリガーを装備して速写性を高めたモデルだ。このフィルムカウン夕一に注目して欲しい。まあ今更という気もするが。間違ってこんな高いカメラを買ってしまった時の参考にして欲しい。

フィルム巻戻し……内蔵モーターによる自動巻き戻し(中略)手動巻き戻し可能

 よく巻き戻すのを忘れて裏蓋を開けてしまうと「ファイト!一発!」と叫びながらすぐに閉めればOKだとか、「目を閉じればOK」だとか云う人がいるが、それはこの際無視。最近のカメラでは巻戻しもほとんど自動化されて、フィルムが最後まで来れば勝手に巻き戻るようになった。これがマニュアルのカメラだと結構忘れて開けてしまったりするんだなこれが。まあ自動に巻き戻るカメラを使っている人はいいが、マニュアル、手動巻戻しのカメラを使っている人に注意して欲しいのが「巻戻しボタン」の事だ。通常の状態では前述のスプロケットは逆転しないようになっていて、このロックを解除してフィルムを巻き戻せるようにするのがこのボタンなのだが、このボタンを押し忘れて思いきり強く巻戻しクランクを回してしまうとフィルムが切れる。切れたらどうなるかと言えばもう巻き戻せなくなり、そのフィルムを取り出すために全暗黒な場所で裏蓋を開けねばならないのだ。(ダークバッグでも可能)意外と初心者は知らない事なので注意して欲しい。この巻戻しボタンが軍艦部(上面の事)や前面に付いているカメラもあるので注意されたい。(キヤノンF1、ライカレンジファインダー機など)また、どのようなカメラを使っていても、フィルムを途中で巻き戻さねばならない場含に備えて巻戻しスイッチ・ポタンの位置は把握しておきたい。

多重露出……多重露出レバーにより可能

 フィルムの一つの駒に2回以上の露出を掛けることを多重露出という。例えば夜空の月を望遠レンズで撮り、そのままその駒に標準レンズで地上の風景を写し込んだりするのがその例だ。この機能が付いているカメラは今では少なくなり、また実際に使う機会もそう多くないものだが、何故か付いていないと寂しいものではある。そこで一つ裏技があって、それは手動巻き上げでかつ巻戻しボタンが付いているカメラに通用するのだが、それを使えば多重露出レバーが無くても多重露出ができるのだ。方法を以下に述べる。(1)まず、普通通りに1駒目を撮影する。(2)巻戻しレバーを回し、フィルムのたるみを取る。(3)巻戻しボタンを押したままフィルムを巻き上げる。(4)2駒目を撮影する。以後必要回数(2)〜(4)を繰り返す。まあこうすればシャッターだけがセットされ、実際にフィルムは進まないから多重露出が可能というわけだ。カメラが多くの機能を持ってゆく過程でこうした機能が軽視されてゆくのは寂しいことだ。

裏ぶた……蝶番式(取り外し可能)(以下略)

 蝶番式というのはごく普通の、あの右開きになる裏蓋の事である。初代ニコンFなどはスライドしてまるごと外れる形式だったが、これだと三脚に乗せたときに非常に不便だったため、F2では通常の蝶番式に改められた。多くのカメラでは裏蓋の交換が可能である。デート機能や露出制御機能をこれにより付加することができるのだ。

 例えばニコンF4用のマルチコントロールバックMF23。F4の裏蓋をこれに交換すると年月日や露出値をフィルムに写し込んだり、オートプラケティングやインターバルタイマーを使うことができるのだ。また裏蓋にはフィルムをカメラに押しつけるための圧板(黒い、バネの上についている板)が付いているが、ここに埃がつくとフィルムに傷が付くので注意。まあここに限らずカメラ内部の埃はフィルムを傷つけるものだが、圧板は特にフィルムに密着するものだけに特に注意を払いたい。また故意に圧板に触ってバネを弱めるとフィルムの平面性が悪くなってピントが甘くなる可能性があるのでこれも注意だ。

レリーズソケット……JISタイプのケーブルレリーズ用のソケットを背面下部に装備

 レリーズというのは直接カメラ本体のシャッターポタンに触れずにシャッターを切るためのケーブル状の道具である。低速シャッターを切る際にはカメラの振動を極力避けねばならないが、そのような場合に使用される。また、カメラのB(バルプ)状態を保持するという用途も重要だ。一昔前の設計で作られたカメラのシャッターポタンのほとんどにはネジを切られた穴が空いているが、これがレリーズを装着するための穴である。この径はJIS規格で決まっているので、レリーズと名の付くものならまず装着できる。また、最近のカメラの多くは電子式のシャッターボタンになっているが、それに対しては各社各様、専用の電子式レリーズが用意されている。この形状は機種によってバラバラであるので互換性がない。全く不便な世の中である。まあいずれにしても安いアクセサリーなので一本持っておくことをお勧めしたい。三脚買うほうが先だけど。

電源……

バッテリーパックMB-20(アルカリマンガンLR6タイプ使用可)、ハイパワーバッテリーパックMB-21(アルカリマンガンLR6タイプ、ニカドKR−AAタイプ使用可、縦位置レリーズ、リモートターミナル、バッテリーチェッカー付き)、マルチパワーバッテリーパックMB-23(アルカリマンガンLR6タイプ、専用ニカド電池MN−20<別売>使用可、縦位置レリーズ、リモートターミナル、バッテリーチェッカー付き)、他に外部電源パックMB−22と交換可能

 これまた随分長くなってしまった。この表題から分かるようにF4には4種類の電源パックが使用できる。そしてMB−20を装備したものをただのF4、MB一21を装備したものはF4s、MB23のものはF4Eと呼ぷのである。SとかEとか云うが、結局はこの電源の違いだけなのである。だからノーマルのF4をとりあえず買って、あとから予算に応じてSやEに替えることができるのだ。これはEOS一1系にも言えることで、ノーマルのEOS1をHSに替えることができるわけだ。

 アルカリマンガンLR6、というのはいわゆるアルカリ単3電池であり、ニカドKR-AAというのは単3型のニッカド電池だ。そして専用ニカド電池MN一20というのはF4専用のもので、ちょうどラジコン用のそれのような形をしている。かように様々な電源がカメラには用意されているが、その長所短所を表にして見てみよう。

長所

短所

アルカリ電池 どこでも入手可。安価。じわじわと電圧が下がる。 使い捨てのために不経済。寒さに弱い。
ニッカド電池 繰り返し充電でき、大電流が流せるためモードラ向け。 初期投資がかさむ。充電時間がかかる。
リチウム電池 軽量・長寿命・寒さに強い。 高価。突然寿命が来る。買える場所が少ない。

 まあこんなところだろうか。近頃のカメラはリチウム以外に選択股が無いものばかりだが、これも時代の流れだろう。あんな小型なカメラに数個のモーターを装備し、かつ電子制御するためには小型軽量なリチウム電池が欠かせないのだ。カメラの小型化は電池次第といわれ、リコーGR1やキヤノンIXY、フジティアラなどが出来たのは超小型のリチウム電池CR2があったからだと言える。ともあれリチウムは高い。高級機には単3で使えるものが多いが、これは別に高級機を使う人が貧乏だからではなくプロにとっては世界中どこでも手に入る電源であることが重要だからである。海外、とくに途上国ではリチウム電池はまず手に入らないといわれる。ところで電池は寒さに弱い。冬場の撮影では電池の保温が重要だ。バッテリーだけ懐に入れ、コードを使ってカメラに電源を供給できるアクセサリーが各社から発売されているので参考までに。またニッカド電池という選択股も忘れられない。繰り返し充電出来、モータードライプによってはこちらを使った方が速度が上がるものがあり、ストロボの充電も速くなる。充電器が5000円前後するため敬遠されがちであるが、長い目で見ればお得であろう。これに関してはカメラの説明書を読んで欲しい。カメラによっては対応していないものもあるからだ。

電源スイッチ……給送モードセレクトダイヤルのLを解除しレリーズボタン半押しにてスイッチ0N、16秒後に自動的に0FF(後略)

 昔のカメラには電源などなかった。露出計はセレン光電池(セレン−半導体の一種。光に当たるとその量に応じて電気が起こるため露出計に用いられる)、シャッターは機械式、巻き上げは手動で、電池に頼っていなかったからである。カメラの電子化はまず露出計の部分から始まった。セレン光電池がCdS〈カドミウムセル−光の量によって抵抗値が変化する部品)に替わり、次にはSPD(シリコン・フォト・ダイオード−CdSに比べて応答速度が速い)に取って代わった。そして電子シャッターの実用化。今では当然のこととなったフィルムの自動巻き上げ。オートフォーカスのレンズ駆動。今のカメラは電源無しにはまったくただの箱である。その電源を開閉するのがこの電源スイッチである。撮影前には必ず入れろ、としか言えないが、くれぐれも切り忘れないように。思わぬ電池の消耗の原因になる。

電源チェック……半押しタイマー16秒:電池あり 半押しタイマー0秒:電池消耗 表示消灯:使用不可

 これは電池の残量をチェックする方法である。撮影中に電池が切れてしまったり、切れかかった経験はだれにもあると思う。多くのカメラにはこの機能が付いており、このF4ではシャッターボタンを半押しし、その時のファインダー表示が何秒間出るかを見て判定する。(表題のとおり)何故この時のタイマーが16秒なのか理由は定かではないが、ニコンのカメラは昔からこの16秒を基準にしてきた。ところでこの表題では何が16秒なのか分からないと思うが、これはファインダーの中の表示が出ている時間である。機種によってこの判定の仕方は違うので各自自分のカメラについて確認されたい。特に大切な撮影の前には必ず確認すること。日頃フィルムを人れないで空シャッターを切って遊んでいると、とんだところで痛い目にあうのだ。特にオートフォーカスを駆勤させると電池の消耗が早まるので注意。(ところで、キヤノンA1は電池がすぐ無くなることで有名だった。)

撮影可能本数……<下記>

約30<45>(5<7>)本
(バッテリーパックMB20、単3型アルカリマンガン乾電池LR6タイプ)
約90<135>(15<22>)本(ハイパワーバッテリーパックMB21・マルチパワーバッテリーパックMB一23、単3型アルカリマンガン乾電池(LR6タイプ)
約70<105>(35<52>)本(ハイパワーバッテリーパックMB21、単3型ニカド電池KRAAタイプ)
約150<210>(80<110>)本(マルチパワーバッテリーパックMB23、専用ニカド電池MN一20<別売>)
(36枚撮り、フィルム給送モードはCH、AFサーポモードはC、シャッタースピード1/125秒以上、20℃でAF35〜70m m F3.3〜4.5S<New>を装着し、1コマ毎に∞と至近間を一往復駆勤、<>内は24枚撮り、( )内はマイナス10℃の場合)

 随分長々と書いてしまったが、まあ一般的に次の様なことが言えるだろう。(1)電気容量の大きい電源のほうが撮影本数が多い。(単4より単3、直列より並列)(2)ニッカド電池の方が寒さに強い。(3)ニッカド電池のほうがアルカリ電池より撮影本数が少ない。(4)リチウム電池は寒さに強い。等々。まあこれらのことは電源のところで書いたが。まあしかしメーカーの出すデータは実戦では関係ないことが多い。このテストではCHモードを使っているが実際にはSモードで少しづつ撮ることも多いし、気温によっても左右される。また、ここでは標準ズーム(猿写を見てね!)を使っているが、よりトルクの必要な超望遠レンズ.またレンズ内モーターのレンズではそれぞれ違う結果が出るだろう。マニュアルフォーカスで使えば電池はもっと長持ちするわけだし、なによりここにはフィルム巻戻しを手動で行ったか自動で行ったか書かれていない。あくまでここに書いてあるデータは目安だということだ。しかし目安は目安、だいたいこのくらいは撮れるのだなという気持ちだけ戴くことにして、常に予備の電池を持ち歩くようにしたい。

三脚穴……1/4インチ(JIS規格)

 カメラを三脚に取りつける時に当り前のように使うネジ。何でこんなことがわざわざカタログに書いてあるのかとお思いだろうが、実は三脚ネジ穴には2種類の規格があるのである。まず一般的なのは1/4インチのJIS規格サイズ。そしてもう一つは中大サイズカメラに使われている3/8インチのものである。まず普通に生きていれば普通の三脚だけ持っていれば事足りるのだが、古いローライなどを買ってしまうとネジ穴が3/8インチなので普通の三脚には載せられない。ではどうするかといえばアダプターが用意されている。これで安心。

大きさ……
バッテリーパックMB-20付き:約169×ll8×77mm
ハイパワーバッテリーパックMB-21付き:約169×139×77mm
マルチパワーバッテリーパックMB-23付き:約169×l57×77mm

重量……バッテリーパックMB-20付き:約1090g
ハイパワーバッテリーパックMB-21付き:約1280g
マルチパワーバッテリーパックMB-23付き:約1400g
(ボディーのみ、電池を除く)

 さすがに最高級機、でかくて重いものです。しかしただ何の理由も無くでかくなっているわけではない。ボディにアルミダイキャストを使用したり、操作部にわざわざダイヤルを使用したりしてコストをある程度度外視してプロの使用に足るものを作った結果がこれなのだ。

あとがき

 今回は実践的なカメラの本というよりもうんちくの本になってしまった。反省。しかし実際、初心者の皆さんにはカタログやカメラ雑誌を読んでも用語が難しくて一体何が書いてあるのか分からないことが多いと思うのでその点での助けにはなれると思う。この本では特にニコンF4について取り上げたが、別にF4である必要もなかった。むしろF5であるとかF90、EOS55などの最新鋭機にしたほうが良かったかもしれない。そうした機種にはまた視線入力であるとかカスタムファンクションなどの新たな機構が取り入れられているからだ。まあそうした項目についてはまたの機会に書くことにしたいと思う。

 写真とは光学であり、工学であり、化学であり、職人芸であり、そして芸術である。どの分野が欠けても完全な作品たり得ない。この本に書かれたたわいもないうんちくがいつの日か皆さんの作品の助けになることを祈っている。

   1997年4月
若林=エクスタシー=茂樹

参考文献

ぺりかん社:カメラ事典新版
朝日新聞社:アサヒカメラ各号
毎日新聞社:カメラ毎日各号
浅沼商会:写真月報(大正元年刊)
その他各社カメラカタログ類

教養分野のインデックスに戻る

このページをごらんの方には、以下のコーナーもおすすめです:
写真部用語事典 | 写真部憲法 | 猿でも撮れる写真講座 | オマケ写真 | and more...

写真部室本当に最後の日

このページの先頭に戻る