第89回

コンビニの匂い、というのは確実にある。それはあの種々雑多な雑誌類から発せられるのか、それともあの食堂の食品サンプルのような弁当たちから発せられるのか、それとも床のメンテナンスに使われるワックスから発せられるのか、それは分からないがとにかく俺はコンビニに入ると、あの独特の匂いにむせ返る。特に冬場の寒い日にはそれを顕著に感じるのだ。寒い所から入ってきて、いきなり暖められたコンビニの匂いが鼻腔に入ってくると俺は居たたまれない気持ちになる。しかもその匂いは、俺の経験から言えば日本全国津々浦々でどこでも同じだ。そして更にチェーン店ごとにその匂いが違うのだからたまらない。ちなみに俺が一番その匂いを感じるのは「7時から11時」だ。あのカウンターで煮られているおでんがいけないのだろう。だから俺はついつい緑と青のあの店に入ってしまう。近くに2件があって、どちらかを選べと云われたら俺は迷わず緑と青の方に入るだろう。「7時から11時」の弁当のレパートリーの少なさにも俺は辟易しているのだ、余談ながら。

 しかし、俺はなぜこの匂いが嫌いになったのだろうか。それはやはり、コンビニとは俺にとって必要に迫られて行くだけの存在だからなのだろう。普段買い物が出来ない時間に空いているコンビニ。その便利さを俺も十二分に享受しているわけなのだが、どうしてもそういう場面というのは切羽詰まっているからいい思い出にならないのである。特に俺が以前にしていた仕事。その時にも大分お世話になったのだが、その時の買い物が何とも理不尽だったものだから、その匂いと状況がセットになってトラウマになってしまっているのかも知れない。

 ・・・俺は潔癖症な先生の為に、毎日毎日これだけの買い物を、仕事の行きがけにコンビニでしなければならなかったのだ。この下の全てを毎日揃えるわけではなかったが。
・フリスク(あの有名なミント菓子。口臭防止の為)
・アルコール含浸除菌ティッシュ(手が脂性な為、その手でカメラを触る事を禁じられていた為)
・綿手袋(同上の理由で)
・綿棒(耳垢を行く寸前に掃除しておかないと看破される為)
・酒類(仕事の憂さを晴らすため。仕事帰りは勿論の事ながら仕事前にもトリスのポケット瓶を空けたりしていた。そんな日の方が『調子がいいな』などと褒められたりしたものだから始末が悪い)
 
 あの頃、俺は仕事が終わると真っすぐコンビニに向かい、何かしらの酒を買ってはそのまま目の前で飲んでいたものだ。金がなくても不思議と酒代だけは出るもので(今でもそうだが)、甘いものは別腹ならぬ「買う酒は別財布(?)」状態だった。銀座で、二子玉で、渋谷で、新宿で。どこに行っても同じ匂いを嗅いで飲んだ苦い酒。携帯が繋がるのが嫌だからといって、地下鉄の便所やホームなんかでもよく飲んだものだ。今でも俺は酔ってコンビニに行くと心が、寒くなる。都合の良すぎる品揃えと平板な店員の対応に騙されているような気になる。まあ、どのように語ってもこれは偏見以外の何ものでもないんだけれど。それにしてもあの匂いだけは何とかならないものだろうか。そう思っているのは俺だけではないと思うんだが、皆様はどう感じているだろうか?あの匂い。



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