第406回
(前回のつづき)その後も、打ち続く休日出勤を早上がりしては不動産屋めぐりを続ける日々。前回述べたリノベーション物件へのあこがれもあり、俺たちはある午後、浅草橋周辺の不動産屋を見てまわることにした。御茶ノ水駅から2駅という便利な立地にもかかわらず、ここ浅草橋にはなかなかリーズナブルな物件が揃っている。駅から少し歩くことさえ厭わず、そして築年数を気にしなければ10万円前後の物件が意外と揃っていた。 そもそも、本郷あたりには東京大学をはじめとする大学が数多くあり、安い賃貸物件もそれなりにあるだろうと踏んでいた俺たち。しかし、そういうモノもあるにはあるが、所詮大学生の一人暮らしを想定した物件なのでほとんどがワンルームなのである。街中にはあんなにマンションが建っているのに、1DK、あるいは2Kを借りようと思ったら13万、15万はあっという間に飛んでいく。仕方ない……そこで視点を春日や後楽園の方に移しても状況は似たようなもの。丸の内線沿線ということで茗荷谷や大塚という線も考えられたが、それでは今回の引っ越しの最大の目的である「会社からドアツードアで2〜30分」という野望がついえてしまう。しかも家賃を10万円程度にしろというのだから、兄貴もさぞや困ったに違いない。結果、俺たちはその兄貴の助言にしたがい、春日で2件、浅草橋で1件(2件だったかもしれない)の物件を見て廻ることにした。 その翌週。ダイハツの軽自動車に乗せられた俺たちは先述の物件たちを春日方面からめぐった。いずれも相当年季の入ったアパートやマンションである。さいたま辺りで同じ金額を払ったらどんなところに住めるだろう? そんなことを考えながら部屋を見ていると、妻が妻なりの「譲れないポイント」を語りだした。曰く、「風呂場やトイレの床や壁がタイル張りでないこと」コレである。なぜなら、カビが生えるから……。そういえば、板橋区の古アパートや富士見市のヴィンテージ雑居ビルにいた頃はさんざん風呂場のカビに悩まされた記憶がある。さいたまのアパートは便器のついていないタイプのユニットバスだったので、その被害はかなり低く抑えられてきた。 で。目の前にある物件(1件目を除く)はすべてタイル張り系。それも無理はない。なぜなら、そのほとんどが築20年オーバーだったのだから……。「もう少し予算をアップしてみないか」と言う妻に対し、「12万も13万も払うなら、最初からマンションを買うわ!」と不機嫌になる俺。いかん。この険悪なムードを打破しなければ……。そんな俺たちに、兄貴は隠し球を提示してきた。(次回に続く) |