第87回

 遂に、と言うべきか。やはり、というべきか。俺も携帯電話を再び持つ羽目に陥ったんである。職務上の都合とは言え、8ヶ月間に渡る携帯のない快適ライフを捨てるのにはかなり抵抗があったんである。何処に居ても出かけてしまえばこちらのモノ的ないい加減かつ安楽な暮らしを妨げるのは、やはり何あろう携帯電話。俺は孫悟空の鉢巻きを思い出しながら新しい携帯電話を眺めるのである。

 何しろ、携帯には良い思い出がないのだ。折角仕事が終わって帰路につく所だろうが、はたまた便所の中にいようが公私の境目を破壊するこの文明の利器に俺は何度泣かされてきたことだろう。留守番電話も許されない仕事の時にはうっかり地下街にも入れないこの凶悪なマシン。待ち合わせに便利?いや、むしろ俺なぞは時間をきちんと守れるようになる気がするのだが。(オフ会にはいつも遅れる俺ではあるが(爆))非常時に便利?それがあなたの死ぬべき日だったのだ。というくらいの携帯嫌いなんである。俺は。

 それからeメールが着信するとすぐにベルが鳴って教えてくれるのも何だかな〜という感じ。間違いメールでもジャンクメールでもこれは鳴ってしまうわけで、その度にドキドキするのはどう考えても心臓に悪い。着信するメールの中のジャンクメール含有率が高い俺にとってこれは由々しき問題で、またそれを開くためにはさらにあの高いデータ通信料を払わなければならないというのだから、まさに二重苦。eメールというのは自分が好きなときに見られるというのが美点ではなかったのか?そして送るほうも相手がいつ読むか分からないという条件を呑んで送っているのではないのか?これではポケベルの再来ではないか。

 そういえばポケベルにも泣かされたものだ・・・。携帯電話よりもある意味傲慢かも知れないポケベル。俺が所有していたのはまだ定型の文字列しか選べない時代のものだったから、いきおい送ってくる人は自分の電話番号を入れて「さあここに電話しろ」という風に相成る。これって携帯電話より失礼だったと思うのだが如何だろうか。出先でこいつが鳴って、こちらは一生懸命電話しようと思って公衆電話を探しているのになかなか見つからず、さあどうしようと思っているところにもう一度追い撃ちのようにポケベルが鳴る・・・。そして電話してみれば「遅い」となじられ・・・いくらどんなに語ってもこちらの苦労は伝わらないのである。とくに仕事の場合は言い訳も出来ないんである。何処にいるかも分からない相手に対して「電話しろ」というこの傲慢がまかり通っていたのだ!そう考えると、まだ直接話せる携帯の方がマシなような気もしてくるのだけれど。それから電車で一時間くらいの道のりを行っているところでポケベルが鳴ったとき、皆さんはどうしていただろうか。折角電車を待ってやっと乗り込んだにもかかわらず途中下車して電話しろというのだろうか?俺は何度かやむなく途中下車してしまった派なのだが、途中下車するのはお腹の急降下のときだけでたくさんだと思ったものよ・・・。しかもそういう時に限ってロクな用件ではないのだった。仕事のクレームだとか約束のキャンセルだとか・・・。

 こんな携帯嫌いの俺なのだが、自分の掌の中にあるカラー液晶を搭載したこの機械に素直に感嘆させられる部分もあるのだ。パソコン通信は音響カプラーで何百ボー(baud。現在のbpsと同じ意味)とか言っていた時代を知っている俺にとって、こんな小さな機械が9600bpsとか、あるいはそれ以上のボーレート(<ヲイ)でデータ通信してしまうなんて神をも恐れぬゴージャスぶりだし、1画面に256色も表示してしまうに至ってはまさに隔世の感、ありだ。しかし・・・ここまでして人間を遠隔操作する機械を発達させる必要はあるのだろうか。今や自分の位置をもとに携帯電話上に地図を表示できる時代。いやそれよりもPHSの位置情報サービス。あれは恐い。もしかしたら盗聴法より恐いのではなかろうか。犯罪者の位置情報はもちろん、2号さんとランデヴー中のあの人とか風俗でプレイ中のあの人の位置も明らかに!・・・何だろうなぁ。プライバシーをみすみす漏洩させる機械を喜んで持ち歩く現代人。何かが違う。

 そんなわけでこの電話番号は業務用なので秘密なんである。知己の皆様には申し訳ないんだが御了承願いたいんである。よろしくお願いいたします。でわ!



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