俺の主な移動手段は、年を追うごとに徒歩→自転車→電車→自動車と変化してきた。自力で動くことから動力の力を借りて移動することへの転換。それに伴って移動のスピードは飛躍的に伸びたのだが、その過程を楽しむという事については、いかがなものだろうか。こんな話は只の一般論に過ぎないと思うのだが、俺はここに「季節の移り変わりを感じられるかどうか」という論点を追加したい。 風の匂い。夏にはむせるような草いきれを感じられるかどうか。冬には冬の、鼻腔を刺す風の冷たさを感じられるかどうか。それが俺にとって大切な部分なのである。確かに、電車を使おうと自動車を使おうと、そこに至るまでには徒歩で行かなくてはならないのだが、その過程を通して自分の足を使っているのとは、かなり違ってくる。自分の靴の裏で、あるいは自分が漕ぐ自転車のタイヤが地面を感じる瞬間―路傍のぬかるみや霜柱などを―が大切なのだろうと思う。 |