第72回

  俺の主な移動手段は、年を追うごとに徒歩→自転車→電車→自動車と変化してきた。自力で動くことから動力の力を借りて移動することへの転換。それに伴って移動のスピードは飛躍的に伸びたのだが、その過程を楽しむという事については、いかがなものだろうか。こんな話は只の一般論に過ぎないと思うのだが、俺はここに「季節の移り変わりを感じられるかどうか」という論点を追加したい。

 風の匂い。夏にはむせるような草いきれを感じられるかどうか。冬には冬の、鼻腔を刺す風の冷たさを感じられるかどうか。それが俺にとって大切な部分なのである。確かに、電車を使おうと自動車を使おうと、そこに至るまでには徒歩で行かなくてはならないのだが、その過程を通して自分の足を使っているのとは、かなり違ってくる。自分の靴の裏で、あるいは自分が漕ぐ自転車のタイヤが地面を感じる瞬間―路傍のぬかるみや霜柱などを―が大切なのだろうと思う。
 最近の俺は、埼玉のある市の小・中学校の草刈りに携わっている。55歳から65歳までのお年寄り13人を使って、朝6時から8時までの作業だ。勿論毎日行っている訳ではないのだが、これがなかなかに面白い。単純な労働なのには違いないが、青い草の匂いと露の匂いとを感じられる。この仕事が11月まで。蚊取り線香の残り香を感じる朝から枯れ草の香りを感じる朝まで、季節感を堪能できそうな今年の終盤である。そんなわけで最近はとても早起きな俺。先週なぞは五時半出勤が四日間だった・・・。


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