第70回

  夕べは川越東高校写真部の校内合宿だった。俺は夕方6時頃から行って、OBやら現役生やらの他愛ない歓談に混ざりつつ、OBとして合宿に参加するのは何回目だろうかなどと思いながらしみじみとしていた。俺以外の全員が80年代生まれという中で、俺は例えは悪いが「若いエキス」を吸って若返ったような心地がしていたのだ。
 そうこうしているうちに、恒例の「寸評会」をそろそろ始めようかという話になった。そこにいた皆は勿論俺が喋るものだろうと思い込んでいたようだったので、俺は敢えて現役生で数々の写真展での入賞経験を持つO河君に喋るようにさりげなく勧めていた。何しろ俺は写真界を去ったばかりの人間、さすがに引け目を感じていたのである。以前はほんの少しの矜恃とともに(写真業界にいるという)堂々と話をすることが出来たのだが、今回はさすがにバツが悪かった。
 でも俺の性格から言って・・・というか出たがりな性格なもので・・・さらに22時には出なくてはならなかったので・・・俺は現役生の皆さんの写真の講評を始めたのだった。始めはさすがにテンションが上がらなかったのだが、何枚ものパネルをこなしてゆくうちにテンションは急上昇、かつてない毒舌ぶりを見せたりもした。キツいことを言ってしまった皆さんにはこの場を借りて御詫び申し上げたい。決して悪意から出た言葉ではないという事を。
 果たして俺は22時きっかりに学校を出た。23時前には家に着き、24時過ぎには寝床についたんである。

 そしてその悪夢は夜半にやってきた。俺は以前の師匠と殴り合いを演じている夢を見た。そして金的を握りつぶされそうになったところで目が覚めた。久方ぶりに写真の話をしたからだろう。

 俺はまだまだ写真をやりたいんだなぁ、と思わされた寝覚めであった。ボーナスでも貰えるようになったら、俺の新しい展開がまた見えてくるような気がした。

 新しいネクタイとワイシャツを買って、俺は明日もまた会社に行く。俺はいまコスプレでもするような気分でいかにも、なサラリーマン風情になっている。人生はやっぱり舞台なんですかねぇ>シェークスピア殿。


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帰省ラッシュ