就職氷河期だってねえ。何でもまっとうな大学を出ても10人に6人しか就職出来ないんだとか。そしたら俺みたいに謎の芸人大学を出た人間なんかが就職できるワケないよな、と自分を慰めてみるんだけれども、やっぱり俺は妻帯者、そんな悠長な事を言っていられる身分じゃないわけで。 中学でも高校でも大学でも、いつも話題に上るのは「将来何になりたいか」という事だった。「何」って何よ?と俺は常々疑問に思っていたのだが、この場合の「何」とは「職業」の事なのでありまして。何をして生計を立てるかが大人として大事だぞ、ということを上は言いたいのでありまして。 それにしても人は職を選びたがる。それは至極当然の事だと言えるのだが、いわゆる「単純な」仕事をバカにする輩が俺には許せない。俺の知りあいに、単純労働者や肉体労働者を口汚く罵る輩がいる。「頭が悪いからあんな仕事にしか就けないのだ」とか、「努力が足りないからあのような職に甘んじているのだ」などと平気な顔をしてのたまうので、そんな貴様の家には水道も来ないし郵便も来ないぞと言いたいところなのだがグッと堪えているのが現状だ。我ながら情けない。何しろ賃金を貰っている立場なもので・・・。もう誰だか分かってしまうけれども。例の東海村の臨海事故の時にも彼は「お前にもあんな仕事がお似合いだ」とご託宣を下さった。「下の方の人間は歯車なのだからいいのだ」「奴等は頭が悪いからあのようにバケツなぞを使ったのだ」もううんざりだ。そういう人たちが電気を起こしてくれて居ることを彼は知らないはずはない。にも拘らずそういう事を言える神経を疑うほかない。 小学生の時分だったろうか、俺は何か母親向けの、教育についてのパンフレットを見たことがある。そこにはマンホールに入って作業している労働者の脇を親子連れが歩いている絵が2枚載っていて、その母親に吹き出しが付いていた。片方には「勉強しないとあんな人になっちゃうわよ」。もう片方には「おじちゃんのお陰で水道が使えるのよ」と書かれてあった。そして前者の方に対して「こういう発言はイケマセン」とあった。俺はこの絵を一生忘れることは出来ないだろう。はからずも子供に対してその冊子は役立ったというわけだ。 どんな仕事でも、その仕事が必要とされている限り価値はあると俺は思っている。まあ殺人請負業とか麻薬の密売人は別にしても、その仕事にお金を払う人がいる限りそれはまさしく、誰もが認めざるをえない「職業」なのだ。 で、その職業を選ぶという話に戻るのだが、このご時世、その時その時に出来る仕事をして行くしかないかなぁ、と思うのだ。これを書いているこの瞬間にも例の彼の姿が脳裏をチラついて居るのだが、もはや猶予はない。どこに行っても何をしても、自分は自分、あなたはあなたなのだから。 |