第407回
(前回のつづき)その隠し球は、新御徒町という街にあるという。突然の想定外な地名に、一瞬とまどう俺たち。しかも、その部屋は兄貴の知り合いである渋谷の不動産屋が取り扱っている物件なのだそうで、その点でも怪しさ倍増。なぜ、秋葉原の不動産屋に行ったのに渋谷の持ち物を見なければならないのか……。もしかして、これってすごく面倒くさいのか? とはいえ、すでに兄貴に提示されてきた物件はすべてボツ。せっかく来ているのだから、そこまで見せてもらおうじゃないか、と思った次第。 そこで兄貴に「じゃぁ、お願いします」と言ったところ、兄貴はすかさずその不動産屋に電話した。結果、その部屋の鍵は水道メーターのところに隠されているのでいつでも見放題とのことだったので、われわれ一行はすかさず向かうことになった。 見慣れない下町の景色。車は何本もの路地を折れ曲がって目的地へと進んだ。距離は大したことはなかったのだが、その周りには駐車場が非常に少なかったため、結局俺たちはその物件の目の前で車から降ろされ、しばし勝手に見てよい、ということになった。 1Fはスーパーマーケット。土曜の午後だけに、なかなかの賑わいであった。そして、その脇にあるエレベータから目的の階に行こうとしたところ、降りてきたのは盛装のインド人らしき親子連れ。インド人かどうか確証はないが、まあそういう感じの人々が降りてきたと思っていただきたい。いわゆる下町風情が残る町並みと盛装のインド人……ここで引くか否かは個人のセンス次第だと思うが、とにかく俺たちはエレベータのボタンを押し、水道メーターの扉から鍵を見つけ出してその部屋に入った。 6Fの角部屋。10月初旬のその空き部屋にはいい感じで光が差し込み、小ぢんまりとしたなかにも清潔感を漂わせていた。1DKということでかなり狭かったのだが、いままで見てきた数件の物件とは一線を画すものがあった。この立地で9万円とは、何故なのか? そして、兄貴はなぜここを隠し球にしていたのか? 俺たちを追いかけて部屋に入ってきた兄貴に聞いてみると、兄貴曰く「バス・トイレ一体のユニットバスなので、二人暮らしの方にはおすすめできないと思って……」とのこと。まあ、世間一般ではそうなるのかもしれないが、俺たちとしてはまったく問題はない。 かくして、俺たちは実に7年ぶりに都民となることになった。その後の引越しは嫁さんにすべてお任せし、社員旅行に出ている間にすべて終わらせてもらった。今まで引越しといえば車を借りて自分でやってきたのだが、さすがにこの多忙ぶりと距離ではそれも厳しい。例の兄貴のおかげで5万円ちょっとで済んだことも幸いした。現在、まだ住み始めて3ヵ月目なのだが、おかげで何とかなっている。さいたまにいた頃は、二度と都民なぞ……と思っていたのだが、やはり通勤の便利さを味わってしまうとこたえられない。まったく現金なものである。さて、そこで締めくくりとして、まったく誰の参考にもならないとは思うが、ここに住んでみての感想を○と×で示しておきたい。 ○だった点: ×だった点: まあ、そういったところである。ともあれ、住めば都とはよく言ったもので、3回目の引越しも成功裏に終わることができた。つぎの引越しは終の棲家か、それとも……。 |