恍惚コラム...

第402回

 フィルムカメラ時代にも高級コンパクトカメラブームが来たことがあったが、デジタル時代となった現代でも皆考えることは一緒なようだ。2、3万円も出せば普通に写るコンパクトデジカメが買えるにもかかわらず、7万円も8万円もするような商品が多数上市されている。曰く、リコーのGR某、ライカのDIGILUX某……。

 こうした中、この3月に発売された1台のカメラがある。その名は「SIGMA DP1」。アメリカFOVEON社の3層式ダイレクトイメージセンサー・「FOVEON X3」を搭載するこのカメラは原理上偽色が生じず、モアレも出にくいのだという。これはフィルム時代からカメラに慣れ親しんだ者にとっては非常に親しみやすい理屈だといえよう。なぜなら、このセンサーはR、G、Bの3色のレイヤーを重ね合わせるかたちで構成されており、カラーフィルムのY、M、Cの3層構造、これと同じだからである。その一方で、一般的なデジカメに搭載されている「ベイヤー式」のCCDやCMOSセンサーは、モザイク状の格子の上にRGBの3色のセンサーが並列に並べられており、たとえば真赤な被写体を撮影した際にはGとBのセンサーは機能せず、その部分からのデータは出力されない(まったくゼロというわけではないだろうが)のだ。よって、カメラ本体がその抜けてしまった部分を補うための演算を行い、一枚の絵に仕上げているというわけなのだ。その過程で偽色や解像度の低下が生じることは、ここの読者諸氏ならばご理解いただけていることと思う。

 この原理に俺はかねてから惹かれていた。FOVEONセンサー自体はすでに同社の一眼レフカメラ・「SD9」に搭載されていたものの、2002年の発売当時の価格は20万円。これに加えてシグマSAマウントのレンズを揃えていかなければならないことを考えるととても簡単に手を出せるものではなかった。しかも、SD9はRAWデータしか記録できないというキワモノぶり。ネット上での通人たちの評判は上々だったが、半可通の俺などはすっかり見送るかたちとなってしまったのだった。しかしDP1は、これの進化版のセンサーを、単焦点16.6mmF4(35mm判で28mm相当)のレンズを搭載したコンパクトカメラに納め、10万円を切る価格で発売されたのだからたまらない。

 前置きが長くなったが、俺はそのDP1を先週勢いで入手してしまった。秋葉原のヨドバシで8万9千800円。冒頭に述べた高級コンパクトカメラの中でもとくにエクスペンシヴなお値段である。さらに、これにフードを装着し、光学式ファインダー(純正ではなくフォクトレンダー用)を装着し、加えて液晶保護フィルムと4GBのSDカードをつけて12万円あまりのお買い物。まだ1週間しか経っていないので結論めいたことは書きづらいのだが、使ってみての感想としては「ツボにはまれば最高の画質、しかし失敗率は極高」といったところである。以下に、その詳細について書き連ねてみたい。

・とにかくピントが合わない……?
 このカメラの動作速度は、一昔前のデジカメを思わせる遅さである。電源を入れてレンズが繰り出されるまでのスピードは問題ないものの、シャッターボタンを半押しして合焦するまでに非常に時間がかかる。そして、レンズの駆動が終了し、カメラがピント合わせを終わったと見せかけておいて液晶画面をよく見ると、全然甘いのである。コントラストの低い被写体ではまったく期待できない。これはコントラスト式AFの限界なのか、それともフォーカスエリア(枠)が広すぎるための問題なのか不知だが、室内でサクッとスナップを撮ろうなどという際には最初からMFにしておいた方が腹も立たないというものである。

・微妙な使い心地のMF
 前項でMFのほうが腹も立たないと述べたが、MFもなかなかの曲者である。カメラ後部に用意されたダイヤルと液晶画面、そして液晶画面に表示される距離を見ながらピントを合わせていくのだが、液晶画面ではなかなかピントの判断がつかないのだ。そのため、画面の中央部を数倍に拡大して見るモードも用意されているのだが、この効果も非常に疑問である。ただ、広角レンズを搭載している事情から、慣れてくれば大体目測でピントは合わせられるようになってくる。

・常用できるのはISO200までか……?
 このカメラの感度は、ISO50から800までのマニュアル設定、もしくはISO100〜200の間で自動的に設定されるオート設定から選択する。ご存じのとおり、最近のデジタルカメラであればISO400〜800でもまったく問題なく常用できる画質となるのであるが、このカメラは最高感度が800にとどめられていることからもわかるとおり、ISO400あたりからノイズが出まくり。800に至ってはもう、最近のデジタルカメラとは思えないノイズの乗りっぷりである。

・そして撮影後にも試練が……
 このカメラのポテンシャルを生かそうとするならば、RAWモードで撮影するのが基本となる。もちろんJPEGでも記録はできるのだが、とにかく色にクセがあるのだ。状況によって緑やらマゼンタ色に転びやすく、よく言えば昔のコダクロームのような色(これは利点とも言えるが)になりやすい。よって、RAWで撮っておいてその後の選択の余地を残しておくことが重要だと考えている。ただ、RAWデータとなると1枚15MBほどのサイズになるのだが、この書き込みが絶望的に遅い。あくまで体感速度だが、4〜5秒は余裕でかかる。しかもその間、ほかの操作は行えない……。どこかでプロカメラマンがこのカメラを評して「中判カメラのように付き合う」などと書いていたが、実際に入手してみるとその言葉の意味が力強く理解できる。薄いピントと遅い動作速度、しかしそれと引き替えに得られる高画質というのはまさに中判カメラ的な性格だとといえよう。

 さて、その問題の画質であるが、これはぜひ読者諸氏に判断していただきたい(1枚3〜6MBあるので、覚悟してごらんいただきたい)。いずれもRAW画像からJPEGに現像したものである。基本的に色調はいじっていない。

(1)「彼岸花」(1/125sec, F8, ISO100)
(2)「廃屋と蔦」(1/30sec, F6.3, ISO100)
(3)「大宮駅東口」(1/250sec, F8, ISO100)
(4)「埼京線車内」(1/60sec, F5.0, ISO100)
(5)「大宮一番街」(1/25sec, F5.6, ISO200)
(6)「ひざまくら屋」(1/30sec, F5.6, ISO200)

 いかがだろうか? このカメラの話は、また折に触れてしていきたいと思っている。



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