第390回
あまりの寒さに(?)MacBook Proのスリープも解除されない今日この頃(マジです……まあ、たまになんですが……)、皆様如何お過ごしだろうか。暖冬だ地球温暖化だといわれるここ数年だが、今年に入ってからの寒さはちょっと凄いのではないだろうか? 朝晩通りかかる水たまり、そして用水路の凍り方を見るにつけその思いを新たにする俺である。先日は結構な雪も降り、まだまだ冬は冬なのだと実感させられる今日この頃である。この与野に移り住んで以来、霜柱がこんなに立っている冬ははじめてなのである。 さて、不本意ながら最近は更新のペースが落ちてきているので話すネタには困らなくなってきているはずなのだが、いざここに何を書くかということになると少し悩む。いつもコラムやザコネタのことを考えている俺のこと、日常のふとした瞬間に「あっ、コレだ!」 前の上司にそのオファーを断りたい旨を告げ、その上司に「じゃぁ、今日あったことはそのまま社長に話しておくから」と言われたのが1月4日のことであった。第388回で書いた通り、俺はその仕事に興味を感じつつも丁重にお断りしたのでもう連絡は来ないと思っていたのであるが、果たして再び電話がかかってきたのである。曰く、「お前の言ったこと、そして今している仕事についてすべて伝えたのだが、それでも社長が直接会いたいと言っている」……何ですと!「いや、それでも答えは変わらないですし、わざわざご足労頂くのもどうかと……」仕事中に携帯にかかってきた電話である。あまり長話もできなかったので早く切りたかったのだが、先方の熱意&圧力には相当なものがあった。「いや、それでも話だけでも聞いてやってくれないか……!」……結果、俺は今度は川越まで赴き、その元上司と社長に会うことになってしまったのだ。1月12日のことである。 その席は川越の旧市街地、時の鐘やら川越スカラ座にほど近い高級寿司店で設けられた。生まれも育ちも川越な俺であるが、川越にこんな高級な店があるとは思わなかったほどの店である。小江戸といわれるだけあって、そういう店があることはうすうす感じていたのではあるが、まさか自分がこんな所で接待されるとは思わない、そんな店である。もちろん座敷は完全個室で、まさにこうした「密談」にふさわしい趣であった。いつ最中の下に山吹色のものを隠した折り詰めを渡されてもおかしくない。というか、むしろ渡して欲しい……。 社長と上司、そして俺の3人で机を囲む。前にも書いたかも知れないが、その社長と会うのはたしか3度目くらいではなかっただろうか。しかも5年ぶりくらいのことなので、俺はその顔をまじまじと見つめてしまう。いったい、これからどのようなことを言われるのだろうか。そして、ものすごくよい条件を示されたらどうしようか。絶対に断るつもりで来てみたにもかかわらず、俺は内心好奇心の塊だった。 そしてビールとお通しが運ばれてきて、乾杯。上司が話し出す。しかしそれは俺にかかわることではなく、彼と社長が今している仕事についての確認事項だった。しばらく社長と話し続ける上司。そして拍子抜けする俺。全然緊迫感がないのである。こんな個室に通しておきながら、普通の打ち合わせをしてどうなるというのか……。俺はついにたまりかねて、社長にこう話しかけてみた。「いや、こんな席を設けていただけるなんて光栄なんですが、いかんせん今の仕事が……!」しかし、社長も何だか積極的に獲得するぞ! という雰囲気ではなく、今の会社の状況やこれからしたいこと、さらには会社設立の経緯までを飄々と語ってくるのである。なんでもその会社、学生時代に物書きを志望していた社長(同人誌なども出していたらしい)がたまたまビルメンテナンスの会社に就職したところ、周りにいた同じく物書き志望の無職者がぞろぞろ集まってきたので何となく設立したのだとのこと。それが今やそれなりの会社になっているのだから面白い。ただ、そうした経緯があるため社内の高齢化が進んでおり、そこが問題なのだという。で、第388回に書いたような事業がこれから盛り上がってくるのに人がいない……と。ワンマン・オーナー社長の悲哀である。俺が今勤めているところも似たようなことになっているので、身につまされながら聞いた。余談ながらその社長、学生運動で揺れる安田講堂の片付けもしていたのだとか……。また、その集まってきた物書き志望も今やそれなりの地位に就いていて、他の会社で部長や専務になっているにもかかわらずその会社に掃除のバイトとして来るのだという。それにしても、その間になぜもっと若い人を雇っておかなかったのかという疑問は尽きないのだが。 結局、待遇についても何についてもまったく語られることのなかった2時間半。社長は最後にこう言った。「あんたのことだから、どうせ他で何かしているだろうと思ってたけど……大したもんですね」それ以来まったく連絡は来ないのだが、たいへん貴重な経験をさせていただいた。前にも書いたが、世の中は目の前にある仕事以外にもさまざまな仕事によってできあがっているということがよく分かった冬の夜なのである。社長にも上司にも、末永く活躍してほしいと思う次第であった。どうか、若くてイキのいい人材を捕まえて事業を成功させていただきたい。そう願わずにはおれない。
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