近ごろ世間を騒がせている、「カリスマ」という接頭辞。カリスマ美容師やらカリスマ店員などが有名なのだが、何と、あの川越東高校に、「カリスマ写真部員」が居るというのだ!
我々取材班のもとに匿名のEメールが届いたのは先月半ばのこと。ホットメールのアドレスからやって来たそのメールの内容を、我々はにわかに信じることは出来なかった。
「こん**は。私は大宮市に住む女子高2年生です。最近、カリスマが流行ってるけど、最近大宮とかでブイブイ言わせてる東高の写真部のヤツラ、あれ何ですか?何かナイロン製のカメラバッグに東高マ→ク入ってるし→、用もないのにでっかいストロボ持ってるし→、そのカメラのレンズの先にはね、赤いフィルタ→がついてるの。しかも、いっつもそばには女子高生はべらせてるんだよ。髪の毛は何か21エモンみたいで、何か体育館履きでバスに乗ってるみたい。でもねでもね、その靴に自分で『シャネル』マーク書いてるんだよ。でもとっても気になる・・・。これも新しいカリスマなんですかぁ?是非調べて下さ→い!♪」
このメールを見たわれわれ取材班は、ろくに目を通すこともせず、専らエロいメーリングリストへの投稿を楽しんでいた・・・そう、1月もの間、その存在は忘却の彼方にあったのだ。
そんなある日、筆者は別件で大宮に赴いたのだった。南銀のピンサロの取材のために。もうそれはそれは2輪車3輪車の大炸裂状態だったのだが、抜き疲れた筆者の目に入ってきたのは・・・そう、そのカリスマ写真部員の姿だったのである。夕方5時過ぎだっただろうか。足腰立たない状態でソニックシティーの裏でガラムをふかしていた私の目の前に、青と白でペイントされたバスが横付けされた。ワラワラと大宮の大地へと踏み出す東高生たち。その中に例の21エモンヘアーの男がいたのだ!筆者は角の丸い名刺を擲ち、その男の後を追跡することにした。
身長185センチ前後。かなり背は高い。そして件のメールの通り、足下は体育館履きでカタめている。しかし記されているはずのシャネルマークはなく、替わりにエルメスの馬のマークが描かれていた。靴ひもはあのエルメスのリボンである。何足も用意しているのであろうか?肩からはテンバの大型バッグが。自分で描いた東高マークがまぶしい。カメラはニコンのものらしいが、薄暮のため形式まで判別することは出来なかった。しかし相当に長いレンズが装着されていることは確かだった。
ソニックシティーの目の前に来ると、取り巻きなのであろうか、女子高生が大挙して彼を待ち構えていた。すかさずカメラを構え、シャッターを切る彼。しかし、発光しているはずのストロボの光が見えない・・・。恐らく赤外線フィルターを使っているのだろう。彼のストロボはミニカムのGN160前後はあろうかという大型のもので、これならスケるかも、と筆者も納得したのであった。しかし、こんなに追っかけがいるのにもかかわらず何故に彼は赤外線撮影などという根暗なテクを使うのだろうか?そんな疑問を抱きながら更に追跡を続けると、彼は横断歩道を渡って「カメラのニシダ」へと入っていった。女子高生の集団とともに筆者もそこに近付くことに。ほどなくして、店内からこんな声が聞こえてきた・・・。
「ハイスピードインフラレッドありますか?」
「いやーウチではちょっと・・・。」
「じゃあ、コニカ赤外750は?」
「そういった特殊なフィルムはちょっと・・・。」
「んじゃあ、イルフォードSFXは???」
「ありません。(キッパリ)」
「んだとコラぁー!鼻の穴に指突っ込んで奥歯ガタガタ言わせたろかー!!」
「アヒィー!」
どうやら赤外線フィルムがないことに対して怒っているらしかった。ひとしきりガタガタとした争うような音が店内から聞こえてきたが、その間にも女子高生たちは「カッコイイー!」「超クールだよね」などと黄色い歓声をあげていた。謎である。確かに長身の美青年であることは確かだが、何故にここまで女子高生の心をつかむ事が出来るのだろうか・・・。
間もなく店から出てきた彼はアザだらけだった。その姿を見てニシダの店員に殴りかかる女子高生が3名、失神したのが5名、失禁したのが2名、そのまま彼を追い続けたのは18名。筆者は引き続きその女子高生の集団に紛れて追跡を続けた。
時刻はもう午後6時になろうとしていただろうか。大宮公園の方向へと向かう彼と、それを追う集団。大宮では日々こんな妙な光景が見られるのだろうか?と、高島屋を右手に見たあたりで彼と同じような格好をした男子高校生の集団と鉢合わせした。体育館履きに、肩からはカメラ。見たところ東高の生徒ではなさそうだが、彼らのバッグには東高マークが誇らしげに描かれていた。彼らもわれわれの集団に合流して、程なく大宮公園に到着した。
彼はすかさず茂みに潜り込んでしまった。どうやらイチャイチャしているアベックを盗撮しているらしかった。このため手動巻き上げのカメラを使っているらしく、その仕事ぶりは鮮やかだった。こちら側の集団からは、終始、ため息。かなりイカレちまっているらしかった。そして数十分経ったころ、彼は大宮公園の闇に消えてしまった・・・。
そこで筆者は、残されたその集団にインタビューを試みた。まずは先程の男子高校生に。
「はじめまして。エクスタシーブックスの者ですが、彼のことは前からご存知なんですか?」
「はい。今どき彼を知らない写真部員なんていないんじゃないですか?」
「彼の名前は?」
「本名は謎なんですけど、僕らの間では『スティンガー』って呼ばれてます。」
「その格好は彼を真似したものなんですよね?」
「はい。もう彼が新しい格好をする度に変えてます。大宮に専門のショップがあって、そこなら大体揃うし。でもみんなあのストロボが買えなくて・・・。東高まで行って体育館履きを買ってくる強者もいるしね」
「で、彼は皆にどんな影響を与えているのかな?」
「もう神です!まさにカリスマって感じで、彼を見て写真部に入る1年生も多いんです。雑誌にも出てるんですけど、知らないんですか?」
と、彼がカバンから取りだした雑誌を見せてくれた。確かに彼を取り上げた記事が掲載されていた。それは彼を賛美する内容で溢れていた。しかしそこでも彼の本名は明らかにされておらず、『スティンガー』とあった。
今度は女子高生にも話を聞いてみた。
「えー、彼を追いかける理由は何なのでしょう?」
「えっ、スティンガーがそこにいるからに決まってるでしょ。バカじゃ〜ん。」
「では、彼の魅力とは何でしょう。」
「もう、す・べ・て。みーんな彼の好きにしてって感じ。」
当社では、今後もこのカリスマ写真部員『スティンガー』についての調査を続行することにする。スティンガーを見かけた、あるいはスティンガーと友達だと言う方はぜひメールにて報告してほしい。
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