第382回
先月運転免許の更新に行ったのだが、俺はその結果に少し不満である。いや、別に警察署のお役所的対応が不満だったとか、顔写真の写りが悪いといったことではない。それらは別にいつものことである。 ある平日のこと。奇跡的に代休をゲットした俺は某(といってもご存じの方にはバレバレだろうが)警察署を訪れた。そこには昼間にもかかわらず多くの人が同じ目的で訪れており、「何だ、みんな仕事を休んでいるんだな〜」という妙な連帯感を感じさせた。で、列に並ぶと、俺のすぐ前に並んでいた80がらみの老人が何やら騒いでいる。彼はどうも窓口の対応に怒っているらしかったが、別にこれは今回の主題とは関係ない。最近「キレる老人」というのが話題になっているが、何となくこれかな、と思わせる程度だった。 そして手続きを済ませ、長いすに座らされる俺。ここでしばし、更新時講習の順番待ちをする。大きな免許センターであれば部屋も講師も複数あり、人が来た順番にさばいてくれるのだが、こうした普通の警察署では前の講習が終わるまでの入れ替え制。果たして、何分待たされたことだろう。せっかくの代休なのに……だが、これもまだ今回の核心ではないのだ。 その後、いよいよ講習開始。これを聞けば、やっと免許証をゲットできるの巻。テレビでよく見かける、本職のアナウンサー氏が交通事故の悲惨さを切々と語りかけるDVDの上映と、いったいどこから連れてきたのだろうと思わせるフツーのおばちゃんの説明が30分ほど。普段着で登場し、いかにも事務的な、そう地方のひなびた博物館にでもいそうなおばちゃんの口調が哀愁を誘う。 で、そのおばちゃん、講習の終わりになって何やら改まった口調で説明したのである。内容はこうだ。「今年から、免許証にICチップが埋め込まれるようになりました。これにより偽造を防ぎ……」云々。そういえば、冒頭の手続きの時に暗証番号を書かされていたのである。今後はどうもIC免許証+暗証番号で行政手続きができるとかできないとか……。かくして手にしたICチップ入り免許証は、これまでとは若干厚みのあるゴージャス(?)なもの。450円ほど手続き費用は値上がりしたそうなのだが、数年に一度のことだから仕方あるまい。今回も交通安全協会には入会しなかったし……。などと思いながら帰路についたのである。 前置きが長くなったが、俺の不満はその翌日から始まった。俺はいつも免許証とSuicaをひとつの財布に入れて持ち歩き、その財布越しにSuicaをタッチしているのだが、どうもその感度が急に悪くなったのである。以前の勢いで改札を通ろうとすると、「ピンポ〜ン」というイヤな音が。これまでにも他人がこの音を発しているのは目にしてきたが、自分のSuicaがうまく反応してくれないのは初めてのこと。通勤ラッシュ時、後ろに並ぶ人々は明らかにイヤな顔をしている。いや、すこし長くタッチしていれば反応するのだが、これが非常に気持ち悪いのだ。 さらに、この感度が駅ごとに、もっと言えば同じ駅の自動改札機間でも違うのには閉口する。じっくりタッチしてもなかなか反応しない場合もあるし、はたまた気合いを入れてタッチしたところあっさりと反応して拍子抜けすることもある。もちろん、このICチップ免許証を財布から出してタッチすれば問題はなく、さらにSuicaを裸の状態でタッチすれば非常に快適に反応してくれるから、この原因がICチップ免許証にあることは明らかなのである。しかし調べてみると、Wikipediaの「ICカード免許証」の項にはこんな事が書いてある。「……IC運転免許証とSuicaやICOCAを同じ財布等に入れても読み取りエラーが起きない。これは、IC運転免許証で使用されている通信方式が、SuicaやICOCAで使用されているFeliCaとは異なる為である」……どうなのだろうか。たしかに通信方式は異なるのかもしれないが、ICチップ免許証に内蔵されている部品(金属?)が干渉して、Suicaの通信を少し妨げているように俺は感じている。 この一件以来、俺は周囲の人に運転免許証とSuicaを同じ入れ物(財布やパスケース)に入れているかどうか聞いてみた。すると、結構多くの人がいっしょにしていると答えるのである。このICチップ免許証の交付は今年1月に始まったばかりであり、まだ東京都・埼玉県・茨城県・兵庫県・島根県でしか実施されていない。さらに、これは更新あるいは紛失による再発行でしか入手できないから、これらの都県に住んでいる人の中でもこれを持っているのはまだごく一部であろう。しかし、これが普及した日には……各地で自動改札を通れない人が続出するのではないか? 今よりももっとピンポンピンポン言わされるのではないか? 今後の動向が気になって仕方がないのである。読者各位も、このICチップ免許証を入手されたら検証してみていただきたい。 |