恍惚コラム...

第369回

 例のライオンみたいな頭をした折口某が世間を騒がせているが、俺自身は以前からグッドウィルの日雇い派遣(以下、グッドウィル=同社の日雇い派遣部門とご理解いただきたい)に注目していた。きっかけは「2ちゃんねる」のアルバイト板である。俺は以前いた業界をしのんでその板をしばしば見るのだが、そこでのグッドウィル関連スレッドの上がり具合と乱発具合は群を抜いていた。最近ではそうでもないが、以前はわが愛機「W―ZERO3[es]」の小さな専用ブラウザの画面でもつねに1ページ目に表示されているほどであった。

 とにかく、そこに書かれている内容は凄惨そのものである。曰く、「いろいろな仕事を選べるはずだったのに、結局引っ越し業者の仕事しかない」「引っ越し業者に行くと、蹴られ殴られ罵倒され、たまったものではない」「モバイト(同社の、Webを利用した仕事予約・照会システム)で仕事を休むと宣言したにもかかわらず、知らぬ間に現場に登録されている」「人が集まらないと、夜中にでも電話がかかってくる」「仕事はすべて交通費込みで、時には赤字」「派遣された先で、『あなたに対しては1万数千円をグッドウィルに払っている』と言われる(実際に彼が手にしているのは6千円程度である)」……などなど。まったく枚挙にいとまがないのだ。すでに各種報道で言われているのでご存じの方も多いであろうが、この板からは(ネタも含まれているであろうが)グッドウィルで働く人々の肉声を聞くことができる。

 それにしても、よくもこんな商売が成り立つものだと思う。労働者に支払われる対価を6割程度「ピンハネ」し、あとは無責任に現場に送り込むのみ。しかも、その労働者たちはろくな面接も試験も受けず、「説明会」に参加しさえすればまず大概スタッフになれるのだという。このような商法がまかり通るようにした国も国だが、それをうまく利用して稼ぐやり口もまた憎い(そういえば、同社の介護保険ビジネスも新法をうまく利用したものであった)。単純労働に対して派遣労働者を使えばこうなることは分かり切っていたはずなのに、この体たらくである。

 しかし、2ちゃんねるの住人たちもそのことは分かっているようで、つねに「直バイト(派遣会社を通さず、その現場に直接雇われること)」になったほうが得だという声があがっている。にもかかわらず、いまだにグッドウィルが営業を続けていられるのはなぜなのか。それはひとえに、・必要とする人夫の数が日々変動する職場が多い ・面接や身元確認が甘いため、どのような境遇の人でも仕事ができる ・どこか1箇所に所属することを嫌い、実情はともあれ好きなときに仕事ができる点を好む労働者がいる、といった理由からであろう。そこに需要と供給のバランスができているのならば仕方ないとも思えるのだが、それにしてもこの中間搾取率は異常ではないか。これなら、「寄せ場」のほうがまだマシなのではないか。

 Wikipediaでは、「寄せ場」についてこうした説明がされている(抜粋)。「……建設業やかつての港湾における労働は、天候や工事の進捗状況、港に入る船の数などによって必要とする労働力が変動するため、自社雇用で労働者を抱えることは最低限しかせず、早朝にその日必要とする労働力を確保し現場に送り届けることで需給の調整を図っていた。現場業者から求人を請け負った手配師たちが、繁華街やスラム街など、その日の職に困っている者の多そうなところに求人に出向き、逆に職を求める者たちも手配師が多く来るところに集うようになって、大都市部のいくつかの場所では日雇労働市場である「寄せ場」が形成されていった。」

 寄せ場とグッドウィルの類似点がよく分かる一文であろう。ただ、寄せ場の手配師がどれだけ手数料を稼いでいるのかは不知だが、少なくともグッドウィルよりはマシなのではないかと考える。また、「データ装備費」なる使途不明のカネが天引きされるようなこともないのであろう。俺自身、(寄せ場ではないが)ある運送業者の日雇い労働に出たことがあるのだが、そこでは日給8千円が支給された。労働時間の違いなどもあり一概には比較できないが、現在2ちゃんねるで言われている賃金よりは確実に高いはずである。

 古来より、こうした労働者が社会を支えてきたことは揺るぎない事実である。だからこそ、俺はこうした人々に心から敬意を表したい。俺も読者諸氏も、明日は我が身かもしれないのである。少しでも日雇い労働の環境が改善するよう願う。

 

 



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