恍惚コラム...

第365回

 徹夜続きで弱まっている俺を季節が追い越していく。つい先日まで春先だと思っていたら、いまやもう6月。初夏といわれる時期にさしかかった。雨が降るたびに空気の湿度が増し、朝、カーテンから射し込んでくる光は夏のそれだ。夕方、いわゆる定時と呼ばれる時間まで出ている太陽。通勤時以外ほとんど外に出ない俺も自然の一部なのだと実感できる、エネルギーの高まり。

 で、最近とみに湧いてくるのがゴキブリ様である(以下、“G”と称する)。このさいたまのアパートに住みはじめて現在4年目になるのだが、ここにきてとにかく出るようになったのである。上述の理由から家で起きている時間は1日2、3時間であるにもかかわらず、毎日毎日何度も目撃するのだ。以前住んでいた鶴瀬のアパートは30年モノで、そこもたいへんGが多かったのだが、こちらはまだ築10年未満。引っ越してきた当初はまったくGとは無縁で「さすがに新しい建物は違う」と思っていたのだが、ついにここにもGの帝国が侵略してきたのである。とくに、階下の5人家族が引っ越していってからはたいへん多くなった。きっと、兵糧を奪われたGがこちらに活路を見いだしてやってきたのに違いない。

 時と場所を選ばず出没するG。例えば昨日は、台所の壁面とトイレの壁面に張り付いているのを目撃した。さらにはたいへん小さな子どもGが枕元にいたし、仕掛けてあるゴキブリホイホイの中には常時5〜6匹のGが焼却処分になるのを待っている。以前であればGが出るたびに驚いていたのだが、最近ではどうということもない。それより、そのGがどれほどの大きさかを観察する余裕すら出てきた。専門的にはいろいろあるのだろうが、俺の分類では部屋に出てくるGの大きさには3段階ある。まず第1段階は、体長5〜10mmで、触覚がそれよりもはるかに長い子どもG。これくらいだと一見しただけではGと分からない場合もあり、見ようによってはまだカワイイと思えなくもない。この虫がGに生まれてきてしまったことを憐れむ余裕すらある。Gの出ない国や地域(北海道にはいないというが……)の人ならば思わず虫かごに入れて飼ってしまうのではないか。そんなG。そして第2段階は、体長20〜40mmの思春期にさしかかったG。Gがどれくらいの年齢(?)から繁殖できるのかは知らないが、人間でいえば中高生くらいのやりたい盛りなのではないかと勝手に想像する。まだほのかに茶色味を残すボディーといい、その素早い身のこなしといい、思春期という言葉がしっくりくる。そんなG。そして最終形態である第三段階は、体長50mm以上の真っ黒なボディーをもったオヤジG。その漆黒のボディーが婦女子を恐怖の淵に陥れるワルなヤツである。こういうGは堂々と垂直な壁に張り付いていることが多い。先ほど「台所の壁面とトイレの壁面に張り付いているのを目撃した」と書いたが、これらはいずれもこのオヤジGである。まさに青二才禁止(分かる人だけ分かってください)の領域に達した、円熟のGである。

 さて、こうしてGを観察するのも一興なのだが、やはり最後には退治しなければと思うのが人の性である。退治法にはいろいろあり、物理的に叩きつぶす方法、殺虫剤をかける(仕掛ける)方法、そしてゴキブリホイホイなどで捕獲する方法があるが、いずれも一長一短がある。まず叩きつぶす方法であるが、これはそもそも成功率が低く、しかも成功した場合にもその後始末に苦労する。また殺虫剤であるが、こちらは叩きつぶす方法よりも成功率が低く、かけるだけかけても結局逃げられる例が多く使い損になることが多い。後に残るニオイもまた困りものだ。そして最後のホイホイなのであるが、これも何かこう、「捕まえている」という実感に欠けて面白くない。

 そこで最近俺が実践しているのが「缶入りのエアブロアーを使って凍らせる」、これである。カメラやパソコンの掃除に使われるあのスプレーは逆さまにして噴射すると冷たいガスが出るのだが、これをGに向けてかけるとあら不思議。動きが止まり、さらに近づけて噴射すれば氷漬けにできるのである。後にニオイも残らず、死体がつぶれることもないのでたいへんおすすめなのである。ただこの方法の難点としては、エアーの噴射が強すぎるとG自体が吹き飛ばされてしまい効果がなくなることやこのスプレーを使いすぎるとガス漏れ警報機が鳴る場合があること、さらにはこのスプレー自体のコストが高いといったことがあげられる。そのため本法は壁の隅などに追いやったうえで実行するのがよいであろう。少しずつ夏が近づく昨今、ぜひお試しいただきたい。最近ではそれ用のガススプレーも売られている(「バルサン 飛ぶ虫氷殺ジェット」「バルサン 這う虫氷殺ジェット」、ライオン)。いかに俺に先見の明があったか(!)ということがよく分かるというものだ……。



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