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恍惚コラム...

第357回

 自分が中学生の頃にこれだけのネットワーク(インターネット)と、これだけのスペックをもつパソコンがあったなら……。と夢想してみる。中学生のとき、俺は「根暗新聞」というのを制作していたのだが、これには8ビットパソコンの雄・PC-8801の「FH」という機種と「ユーカラアート」というワープロソフトを使っていた。すべてのシステムがフロッピーディスクベースで動くそれはたいへんな緩慢さで、少し長い文章を漢字変換すれば誤変換の嵐なのだったが、それでも目の前にあるのはこのマシンだけなのだから仕方がない。しかも、10数年後にこのような時代が現出するとは誰も予想していなかったから、俺はそれなりにそのマシンを楽しんでいた。で、その原稿を印字(これも今や聞かなくなった言葉だ)するのはインクリボンをものすごい勢いで消費する熱転写プリンタ・PC-PR101TL。今にして思えばどうして、と思えるほどの騒音を発しながらそのプリンタは俺の戯言を印刷してくれた。また、ここからが問題なのだが、当時の8ビットマシンで動くワープロソフトにページレイアウトの機能などはまずなかったため、俺はその15字詰めの文章や手近な写真をB4判の紙に切り張りしては新聞らしく見せ、それを10円コピー機でコピーして頒布していたのである。アナログなのかデジタルなのか、よく分からない制作工程。何としても写真をプリンタで印刷してみたかったのだが……。しかし、俺は俺なりに当時の最先端を行っていたのである。
 それが今や、である。どんなワープロソフトでも画像や写真をレイアウトし放題だし、数百GBのハードディスクが繰り出す漢字変換はほぼ無敵。そして俺が数千メートル? のインクリボンを費やしてきたプリンタも、今では印画紙を駆逐する勢いである。そして完全に変わってしまったのは、その配布方法であろう。
 10円コピー機でその「根暗新聞」を作っていた話はすでに書いたが、今ではPDFに書き出してメールに添付すればそれで事足りる。まあホームページに掲載しても同じことなのだが、つまり教員に見つかって正座させられる心配も、学年に一人はいたヤンキーに目をつけられる心配(いずれも実体験だ)もなく、こうした個人的なメッセージを公衆に向けて送信できるのである。もし、俺が中学生の頃にこのようなシステムがあったなら、それはもうたいへんクオリティーの高い「根暗新聞」ができたことだろう。切り張りする手間もなく、文字や写真をきれいに印刷できるパソコンだなんて……。当時の俺がそんな物を手に入れていたら、きっと寝食を忘れて没頭したことだろう。俺は現代の中学生をこの意味で非常にうらやましく思う。やる気さえあれば簡単に市販の印刷物に近いものを作ることができ、人に伝えることができるのだから。
 しかし、物心ついたときから目の前に携帯電話やインターネットがあり、それを当然だと思っている彼らがこのことの重大さに気づいているかははなはだ疑問である。電子メールは俺たちの世代にとっての「プッシュホン」と同様だろうし、インターネットも完全に生活に組み込まれてしまっている。彼ら以前の世代が渇望してきたそれらの仕組みがただ漠然と目の前に転がっている心境は、俺にはとても想像できないものだ。
 だからこそ、先週話題にした「学校裏サイト」などというものが流行るのではないだろうか。目の前の画面に書いたことがそのまま、他人の目に触れず確実に相手の画面に表示されること。それは、先に述べた「正座」や「ヤンキー」のリスクを回避することにほかならない。目立つことをすれば、あるいはモラルから逸脱することをすればいつかは糾弾されることを、俺はある意味「根暗新聞」を通じて知った。読者各位も、学校で回ってくる手紙や個人的なラブレターなどで同じ経験をされたに違いない。しかし、現在ではどんなことを書いてもほぼ間違いなく目的とする相手に直接届けることができる。これを当然と思う世代が、インターネットを使って騒ぎを引き起こすことは当然の帰結なのではあるまいか。ただでさえ、精力が有り余っている年代なのだから……。
 それでは、現代の中学生(まあ若者全般である)にパソコンやインターネット、およびパソコンの有難みを知らしめ、巷間騒がれているような事態を防ぐにはどうすればよいのであろうか。ただそれを取り上げろ、ということはたやすいし、読者各位もご承知のとおりその年代には何かと取っておきたい秘密がある。
 正直、それは俺にも分からないのだ。ただ、彼らの引き起こす騒動がインターネット全体を停滞させることを危惧している……。何とも締まらない話になってしまったが、読者各位にもぜひ考えてみていただきたい問題である。



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