恍惚コラム...

第354回

 (前回のつづき)MRI検査をひととおり終え、別室に呼び出された俺。その薄暗い部屋には19インチほどの液晶モニターが数台並び、たいへんサイバーな雰囲気だ。その画面には、もちろん俺のボディーの輪切り画像が。

 そこで、である、技師のお兄さんがこう言ったのだ。「何か、脳のこの部分が気になるんですけど……」見ると、確かに画面向かって右の方に1センチ程度の白い部分が見受けられる。周囲は黒く写っているのに、その部分の白さは際だっていた。もしかして……ヤバイものができているのだろうか。お兄さんは俺の動揺ぶりを気遣ってか、穏やかな口調でこう続ける。「不摂生が続くとこういうのが見えるんですよねー。念のため、この部分を詳しく撮らせて下さい」……。俺は大いに悩んだ。たしかに不摂生には思い当たるふしがある。だが、医師でもない、臨床検査技師によるこのコメント。折しもその日、その医院には医師は不在だそうで、当日の検査結果は翌週に医師が読影したうえで郵送される手筈であった。再撮影なら、医師の指示によるほうが良いのではないか? しかし、ここは長野である。長野新幹線で往復1万2千円もかかる場所なのだ。医師が読影するにも、材料は多い方がよろしかろう。

 で、結局俺は追加料金(千円)を払うことにし、再びMRI機上の人となった。つい先ほどは軽い気分で乗ったMRIだったが、今回はずいぶん印象が違う。今回ははっきりとした目的があって乗るのだ。そう思うと、やたらと白いMRI室の壁も、やたらと仰々しいその寝台も空寒いように見えてくる。もしかして、このまま病院に担ぎ込まれるのではあるまいか。そんな思いとは裏腹に、MRI機は淡々と例の騒音を発しはじめた。

 その再撮影は10分ほどで終了した。その後、動脈硬化の検査(どうも腕と足での血圧の差を測り、その差を利用して血液の流れの速さを測るらしい)や体脂肪検査(市販の装置とは違い、四肢に大きな電極を装着して測る本格的なものだ)に移る。それをもって検査はすべて終了だ。かくして、妻の待っている待合室に通されたのだが……。

 妻は俺にあれこれ質問攻めをしてくる。それは至極自然だろう。安からぬ金額を払い、自ら痛くもない腹(?)を探りに来たのだからその結果が気になるのは当然だ。しかし、脳の一件をなかなか言い出せない俺。「医師による結果が出てからでいいだろう」と考えていたのだ。だが、そんな俺の秘密を暴く刺客が登場した!

 待合室に通されて10数分ほど経った頃だろうか。件の技師のお兄さんが、まさにその問題の箇所が写ったフィルムを手に現れたのだ。「やっぱり何か写ってますねぇ……大丈夫だとは思うんですが」。絶句する俺たち。「医師による判断は後日郵送しますから……」。それから数日間にわたる俺たちの心配ぶりはご想像のとおりである。俺自身は自覚症状も何もないので内心大丈夫だろうと思っていたのだが、妻が急に優しくなったのが逆に怖かった……。しかし、ふとした瞬間にあの画像が脳裏、まさに脳裏に浮かんでしまうのには閉口した。もともと自覚症状があったり、極端に神経質な人だったりしたらこの結果待ちの間に参ってしまうのではないだろうか。

 果たして3日ほど後。検査結果が郵送されてきた。曰く、「……の高信号部分は脳梁の回り込みによるものであり、異常ではないものと判断されます」何と! やはり何ともなかったのである。恐るべしハイテク医療機器。見えなくても良いものさえ映し出してしまうとは何と罪作りなのだろうか。しかし、俺の脳が人とはちょっと違う雰囲気なのは確かなようである。この「回り込み」の部分が俺の人生や思考、性格に何の影響も及ぼしていないとはいえないのだ。そう思うと、何かたいへん不思議な心持ちがする。

 こんな新鮮な驚きに満ちた脳ドックを、ぜひ読者の皆様にもお勧めしたい今日この頃だ。ちょっとした旅行に行ったつもりで自分の脳を観察してみるのもたいへん面白いものである。画像データをCDに焼いてくれる施設であれば、フリーウェアで頒布されている分析ソフトで見てみるのも楽しい。ちなみに、下の画像はソフト「Osirix」により、自分のMac上で表示したもののスクリーンショットである。

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