恍惚コラム...

第347回

 さて、1週間の間が空いてしまった。先の週末は大阪に2泊3日の出張をしており、そこには愛機PowerBookも持ち込んだのだがさすがに書いている暇もなく……。さらに、泊まったのはあの社長による「スピード違反」発言で有名になった「東横イン」であり、そこは全室LAN完備だったのだが……。まあ言い訳をしていてもはじまらないので、前回積み残したクルマの話を続けることにしよう。それにしても、最近の東横インの豪華さには驚きだ。一泊5千円あまりでネットに繋ぎ放題、そのうえ新聞と朝飯が無料でついてくるとは……ネット屋で1時間数百円を払っていた頃とは隔世の感がある。

 さて、またもベンツの話だ。前回述べたとおり、免許は取ったものの実際には運転にまったく縁がなかった俺は、おもにベンツの見張りとガラス拭きを担当することになった。都会での駐車違反取り締まりが強化された昨今、カメラマン諸氏がどのように路上駐車をキメておられるのかは不知だが、昔は昔でなかなか苦労させられるものがあったのだ。ご承知のとおり、カメラマンがなぜ自動車で移動するかといえば機材が重いからである。よってできるだけ撮影現場に近いところに駐車場を確保しなければならないのだが、おもに情報誌での店取材をメインにしていたセンセイにとってはこれが悩みのタネだった。

 名前を明かすわけにはいかないが、その情報誌というのはわれわれが現在見慣れている若い女性向けに流行の店を紹介するさきがけとなった雑誌である。すると、いきおい撮影地は青山だの銀座だの表参道だの、自動車を止めづらい場所に集中するわけである。そこで、駐車場を確保するにはどうするか……結果、俺は毎回撮影の30分〜1時間前には店の近くへ行き、パーキングメーターや路上駐車可能なところを探さなければならなかったのである。

 あらかじめ渡された住所を頼りに見知らぬ駅に降り立ち、俺はその店の周囲を見渡す。もっとも嬉しいのはその店に駐車場があることなのだが、そんなラッキーはそうそう転がっていない。だから、俺はいつもパーキングメーターを探していた。それがなければ次に100円パーキングがあるかを確認し、ダメなら最悪の手段は路上駐車。その場合には撮影中であっても頻繁におベンツの無事を確認しなければならないこの煩わしさ。

 なかでも涙ぐましかったのは、繁華街におけるパーキングメーター確保術である。表参道あたりの景色を思い出していただければ分かりやすいだろうが、ああいう所ではつねにパーキングメーターの争奪戦が起きている。運良く停められるクルマもあるが、基本的には誰もがハイエナ。全ドライバーが虎視眈々とパーキングメーターの空きを狙っていると思ってかからなければならない。そんな都会の戦場で、丸腰の俺がとった手段とは……。

 パーキングメーター磨き。これである。空いているパーキングメーターの白線内に立っているだけでもある程度後続車を抑制する効果はあったのだが、それでも繁華街ではベンツ・BMW・ジャグアーといったコワモテグルマが我がもの顔で突っ込んでくる。そこで開発されたのが、このパーキングメーター磨きなのだ。

 方法はいたって簡単である。カバンの中に雑巾とガラスクリーナーを忍ばせておき、センセイのおベンツが来るまでひたすらパーキングメーターを磨き上げるのだ。ただ立っているだけでは容易に突っ込まれてしまうが、こうして掃除人のふりをすることで100%後続車を回避することができたのだ。もちろん通行人からは怪しまれるが、背に腹は代えられない。駐車場が確保できなければ、どんなバイオレンスが待ち受けているか知れないのである。ときには関係ない看板やカーブミラーまで磨き上げることで、俺はひたすら撮影開始時間を待ったのである。

 こうして、ベンツおよび自動車の不条理さを身をもって知っていった俺。クルマ好きへの道のりはまだまだ遠い……。この続きは、またいずれ書くことにする。



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