第322回
昨年のコラムを読み返していたら、俺はどうやらあと1年はこのPowerBookを使い倒す覚悟をしているらしい(第286回参照)ことが分かった。何だか他人事のように書いているわけだが、ついにこの世から新品のPowerBookが駆逐されてしまった今となっては複雑な気分である。PowerBook系の最後の砦であった12インチ仕様はひそかに姿を消し、PowerBook改めMacBook Proは15インチと17インチのみのラインナップとなってしまった。また、つい先日にはiBook改めMacBookも登場し、Appleはついにノート型製品すべてのIntel化を完了したのである。このMacBookはこれまで弱点とされてきた画面解像度を1280×800ピクセルにアップさせるなど、基本的なデザインが長いこと変わらなかったiBookのイメージをすっかり塗り替えてしまった。黒ボディー仕様と光沢のある液晶画面には賛否が分かれるところであろうが、アンチIntel(?)派の俺から見ても魅力的なルックスに仕上がっている。 だが、俺にとっての退路は断たれてしまった。Appleは相変わらずIntel Macの処理速度がPowerPCのそれにくらべて4〜5倍であることを喧伝しているが、それはIntelチップに対応したソフトウェア上でのお話。確かに最近のコンシューマー系Macには多くの付属ソフトがあり、一般ユーザーはほとんどソフトを買い足すことなくIntel Macの恩恵を受けることができるであろう。しかし、である。俺も(やむなく)使っているMicrosoft Officeは次期メジャーアップデートまでIntel対応の予定がないそうだし、その数倍の価格帯でのラインナップをもつAdobe社の一連の製品についてもまったく不透明だ。そのうえ、Adobe社は「クリエイティブ プロフェッショナル向けアドビ ソリューションAdobe(R) Creative Suite、Adobe Studio、After Effects(R)等、Macintosh版アドビ製品ユーザ向けインテル(R)製マイクロプロセッサを搭載したMacintosh(R)に対するアドビのサポートに関するFAQ」と題した文書の中で「最適なパフォーマンスを必要とするMacintoshユーザは、アドビがユニバーサル アプリケーション(筆者注:PowerPCとIntelチップのコードを1本のパッケージにしたアプリケーションパッケージ)を出荷するまでAdobe Creative Suite 2、Adobe Studio 8およびそれらの構成製品はPowerPC搭載システムで使用された方が賢明かもしれません。」とすらしているのだ。 たしかにノートパソコンのみでAdobe社のソフトを使い倒そうというプロフェッショナルは少ないかも知れないが、この一言が業界の混迷を物語っているとはいえないだろうか。俺にとっても読者の皆様にとっても、MacはまだまだPowerPC搭載システムで使用された方が賢明かもしれないのである。たしかにAppleは一種のエミュレータである「Rosetta」をOSに実装し、Intel Mac上でもPowerPCのコードを動作させることを可能にはしているが、所詮エミュレータはエミュレータである。各種雑誌などのベンチマークテストを見ていても、Intel化の恩恵を受けているのはApple純正ソフトのみ(いちはやくIntel対応を果たしたサードパーティー製品もあるが)。これまで繁用されてきた各種のソフトではパフォーマンスの低下が目立つのだ。Intelチップがこれからどんどん高速化していけばあるいはこの溝は埋まるのかもしれないが、Macの買い時を読むことができない状況は当分変わらないだろう。そうこうしている間にも好事家たちはどんどんIntel MacにWindowsをインストールしているわけで、もう俺としては言葉もない。本当に最後の砦となったPower Mac G5を真剣に手に入れたくなる昨今だ。 ともあれ、Appleの今後を案ずる立場からすればソフトウェアベンダー各社が可及的速やかにユニバーサル アプリケーションをリリースしてくれることを願うしかない。何度も述べているが、Appleは紆余曲折を経ながらも680x0系からPowerPCへの大移行を成し遂げたメーカーだ。そして俺は愚直にも、そう遠くない将来にIntel Macを手に入れることだろう。それまでにこの自体が収拾していることを願うしかない。 |