恍惚コラム...

第321回

 伊奈学園総合高校写真部のOG有志5名が合同写真展を始めてから3年が経った。今では広告スタジオでいっぱしのカメラマンとして活躍しているS嬢(俺よりひとつ若い)を中心としたこの5人は、これまでにも埼玉県内の公民館系で年1回の写真展を開催してきたのだが、今回の会場はなんと渋谷。埼玉県内でも喜んで参上するところだが、都内のギャラリーで開催するとあってはいてもたってもいられない。そこで今日は、さっそく訪問してみることにした。

 雨の中訪れたそこは、渋谷の新南口から徒歩1分。3、4階建てのギャラリーはとくに写真限定ということではないらしく、1階では陶芸展が行われていた。それを横目で見つつエレベーターで3階に上がっていくと18畳ほどのスペースが現れる。そこに、高校時代から見知っている彼女らの写真が展示されていた。

 5人のメンツのうち、ほとんどがカメラマンあるいは写真関係に従事する方々の写真だけあって、質にはまったく不足を感じない。最近すっかり写真を見なくなった俺はそれを言葉にする力をすっかり喪失してしまっているのだが、植物や人物、海外の景色や身近な空の様子などが写ったその写真からは「写真の普遍性」を感じることができた。いかに機材や時代が変わろうと、写真を志す人間が自分の視点を印画紙に定着しようとする気持ちに変わりはないのだ。俺はギャラリーを20分ほどうろうろした挙げ句、無礼にも「写真はわかんねーな……」と言い放ったものだが、5人の方々が真剣に撮った写真を眼前に突きつけられ、しかもそれらの写真がそれぞれの性格を彷彿とさせるものであったとして、われわれはそれ以上の言葉を発する必要があるだろうか? 商品としての写真、コンテストとしての写真であったならば批評する必要もあるだろうが、こうして写真部というひとつの紐帯で結ばれた方々が30を間近にして(??)も写真展を続けているという事実が素晴らしいのだ。進化するテクニックと、年齢によって醸成される人柄。まったく安心して見られる写真展であった。

 しばし、ギャラリーにいた彼女らと歓談。都内に進出した理由や最近の仕事について、そして高校写真部の話などをさせていただく。だが、コニカミノルタやマミヤオーピー社のカメラ事業撤退をさんざん嘆いたあと、話題はやはり高校写真部関連に移っていった。S嬢いわく、やはり最近の高校写真部ではデジタル半分、銀塩半分というのが現状のようである。そこではデジタル一眼レフカメラが高価すぎて買えず、しかたなく学校側が用意するという現象も起きているらしい。まさしく過渡期ではないか。以前であれば高校生の家庭にはほぼ間違いなく(クラスは不問とするが)一眼レフカメラがあり、部員はとりあえず同じスタートラインに立つことができた。もしそれがなくとも、中古品のタマ数が豊富だった当時は容易に入手することができた。

 しかし現在ではそうはいかない。D70やEOS Kissデジタルのレンズ付き中古品は6〜7万円のプライスカードをつけているし、カメラ自体がどんどん陳腐化していくから買い時がまったく読めない。もう数年すれば中古市場もカメラの進化も落ち着いてくるのだろうが、それまではカメラ好きの親御さんの奮起に期待するしかない。また同時にS嬢はフィルムの値上がりと印画紙の選択肢の減少についても言及し、「フィルムが高くなったせいで生徒に買え買えと言いづらくなった」「パネル張りできる薄手のバライタ印画紙がなくなったので、展示用写真の制作にこれまで以上の経費がかかるようになった」とも述べた。これだけの懸案事項を抱えながら活動しなければならない現代の高校写真部はまったく気の毒だ。できれば俺もその気の毒に巻き込まれてみたいのだが……。

 これを書いているMacのハードディスクにも1,000枚以上の「写真」が納められている。今、あらためてこれを写真と呼ぶべきか否か。そんな根源的な疑問があらためて湧いてくる週末である。



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