恍惚コラム...

第320回

 日本には欧米のようなバカンスの習慣はないが、やたらと国民の休日やら祝日を作って休ませる習慣はしっかりと根付いている。仄聞によれば、これほどまでにオフィシャルな休日のある国はそうそうないのだそうだ。2006年5月の連休は5日間。世間には5月1日、2日を休んで9連休にしようとする輩もいるようだが、そんな高級な仕事をしているわけではない俺にとっては今年もカレンダーどおりの休暇である。

 そんな5連休もすでに4日目を迎えている。初日は実家でただ酒を飲み、2日目は浦和あたりをブラブラ。3日目はほとんど家から出ずに悶々とし、4日目となる今日は……。昼を過ぎてもパソコンに向かっている。肝心の妻は専門学校の課題に追われており、出かけるあてはまったくない。それこそが幸せではないか、という声も聞こえてはくるが、それはそれである。連休のほとんどを消化してしまった俺の心の中ではすでにサザエさんのエンディングテーマが流れ出しているのだ。「♪サザエさ〜んは愉快だな〜」何が愉快なものか。サザエさんの愉快さを皮肉に感じつつ暮れてゆく日曜の夕刻。こんなにも寂しいものはほかにないであろう。サザエさんシンドロームという言葉もあるようだし、これはきっと日本人のDNAに刻まれたカルマのようなものなのだろう。

 とはいえ、寂しくなる曲にはそれなりの思い入れがつきものだ。ただ聞き流してしまうだけの曲は無数にあるだろうが、「寂しくなる」ということを記憶しているからにはそこには心の動きがある。何度も聞くことで生まれる自分への視線。長い休みにこそこういう曲を聴きたくなるというものではなかろうか。そこで突然ながら、俺的に寂しくなる哀愁ソングの一部を読者の皆様に披露してみたい。

1)宗次郎・喜多郎系 オカリナの調べ
 なぜだか小中学校の帰宅テーマソングはこれが定番だった。曲名も何も知らないが、これを聞くとすぐにどこかに帰りたくなるのは俺だけではないはずだ。確か「シルクロードのテーマ」とかいうのではなかったか……。

2)小坂明子 「あなた」
 どういういきさつかは知らないが、多分男に捨てられた女の人がその男と得べかりし未来について歌った曲。「♪もしも〜私が〜家を建てたな〜ら〜」家を建てるべき主体が男ではなくて女の方だというのがいじらしい。「♪家の〜外では〜坊やが遊び〜」子どもまで欲しかったのね、この人。「♪それが〜私の〜夢〜だったの〜よ〜 愛しい〜あなたぁ〜は〜今〜ど〜こ〜に〜」これを聞かされたらとても帰る気にならないと思うのだが如何か。でもいい曲であることには間違いない。

3)さだまさし 「防人の詩」
 「♪教えて〜くだ〜さい〜」の有名なフレーズで始まるこの一曲。最近ようやく音源を入手し、改めて聞いてみたのだが……さだまさし最高。日本最多のコンサート回数はだてじゃないということがよく分かる。「♪海は死にますか 山は死にますか」なんてセリフを俺も一生に一度は思いついてみたいものだ。

4)JUN SKY WALKER(S) 「声がなくなるまで」
 俺の口からJUN SKY WALKER(S)の名前を聞くことになるとは誰も予想しなかったに違いないが、これはまぎれもなく俺の魂に刻まれた一曲。「♪二人はいつ〜も寄り添いあぁって〜 夢の続きをぉぉ 組み立て〜てたのに〜」中学一年生の頃、部活の朝練に行く前にテレビでかかっているのを見て以来なぜだか忘れられないのである。十数年前、テレビがまだまだ24時間放送でなかった頃。早朝のテレビはカラーバーと「ピー」という信号音が鳴り響く世界だった。そこに新曲紹介のような番組が流れ、「電波は正しく使いましょう」といったおどろおどろしいCMが流れ……。そして何より、朝5時半には起きて朝練に行かねばならないというアンニュイさ。こうした雰囲気とメロディー、その歌詞のマッチング。歌との出会いには、いつどこで聞いたかという要素が大切だということを思い知らされる。

5)ZIGGY 「GLORIA」
 俺の口からZIGGYの名前を聞くことになるとは誰も予想しなかった(後略)。「♪歪んだ煙を見つめな〜がら〜 あてにならな〜い明日を占えば〜」このグループのことはまったく分からない俺なのだが、どうもこの曲を聴くと若かりし日を思い出す。ちょうど今この時のように、あてどもない休日を過ごした真夏の日々が……。まったく主観なので同意は得られそうにないが、まあそういう事なのである。

6)THE BLUE HEARTS 「チェインギャング」
 俺の口からTHE BLUE HEARTSの名前を聞くことに(後略)。しかし、何を隠そう中学時代の前半はTHE BLUE HEARTSを聴きまくっていた俺のことである。甲本ヒロトではなく、真島昌利のボーカルによるこの曲に俺は最初から敏感になっていた。「♪俺の話を聞いてく〜れ〜 笑い飛ばしてもいいか〜ら〜」「♪それでも僕はだました〜り〜 モノを盗んだりしてき〜た〜 世界が歪んでいるの〜は〜 僕のしわざかもしれな〜い〜」こんな俺だが、思春期には他人との違いに悩んできた。それこそ成績のことからナニの長さまでさまざまである。そこに突きつけられたこの歌詞は生涯忘れられないものになった。

7)中島みゆき 「エレーン」
 さて、そろそろ真打・中島みゆきの登場である。この曲自体は1980年のアルバム「生きていてもいいですか」に収録されているものだが、俺自身が出会ったのは大学1年の頃。外国人と思しき女性・エレーンが行方不明(?)になった後のエピソードについて歌ったこの曲は、まだまだ向こう見ずだった18歳の俺を戒めた。「♪風に〜溶けていった〜 お前が残していったものといえば〜」「♪恐らく 誰も着そうにもない〜 安い生地のドレスがカバンにひとつと〜」……このまま歌詞全てを書き写すのがもっとも適切なのだろうが、さすがにそれはヤバそうなのでサビの部分を紹介するにとどめる。「♪エレーン 生きていてもいいですかと 誰も問いたい エレーン その答えを誰もが知ってるから誰も問えない」高校を卒業し、気付けば周りは他人ばかりになっていた俺。全国各地から志を胸に上京してきた学友たちの姿を見ながらこの曲を口ずさめば寂しさは最高潮に。今でもカラオケで歌ってはドン引きを誘発する一曲である。

8)中島みゆき 「異国」
 上述の「エレーン」と同じアルバムに収録されているこの曲。「♪百〜年〜し〜て〜も〜 私は死〜ねない〜 私を〜埋〜める場所などない〜から〜」……自分の故郷はどこにあるのか? という問いかけに終始するこの曲を、埼玉県人である自分の耳に通すとき……。俺もどこか遠くへ行きたくなるのである。

 まあとりあえず手近な8曲を紹介してみたが、如何だっただろうか。主観は主観に違いないが、この連休のアンニュイさが読者の皆様に伝われば幸いである。時刻はもう3時。今日も軟禁状態のまま一日が終わる……。



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