第315回
一時(22、3歳の頃だ)は体脂肪率5%という「ひとり飢饉」状態だった俺のボディーなのだが、最近になって急激な変化を遂げている。体脂肪率は余裕で2X%を超え、体重もぎりぎり標準レベル。痩せすぎるのも問題だが、これほどの落差があるのはかなり気になるものだ。そういえば階段の上り下りにも精彩を欠いているし、すぐに筋肉痛になるのもつらいところ。歳を重ねるごとにカラダの代謝が下がってゆく……という理屈はわかるが、これが自分の身に降りかかってくるとは思いもしなかった。 これを俺に自覚させたのは、ほかでもないわが妻である。俺の「ひとり飢饉」時代を知っている妻に言わせれば、これはもう肥満体以外の何物でもないのだろう。近頃の俺は夜な夜な脇腹をつままれ、首筋に乗ってきた肉について滔々と語られている。確かに「妊娠何ヶ月ですか?」という問いが相応しくなってきたこの腹を見るにつけ、自分自身でもマズイと思っているのだが……。 そもそも運動することを真っ向から否定してきた俺である。小学生の頃は放課後に野球を楽しむ同級生を冷ややかな視線で見つめ、自習の時間を何とか校庭で遊ぶべく画策する輩を蛇蝎のごとく忌み嫌った。中学生の頃は「運動部に入らないと内申点が下がるから」と脅されてテニス部に入ったものの、万年補欠。いかに部活をサボるかに心血を注ぐ3年間を過ごしてきた。そのうえ高校生の時分には皆様御存知の写真部ライフを送ってきたので、ついに運動らしい運動をすることなく現在に至ったのだ。今いる会社でも若手社員が野球やバスケットボールなどを楽しんでいるのだが、出場したのははじめの1回のみ。あまりの使えなさか、あるいは運動嫌いを公言しているからか、最近では俺の知らない間に皆が定時で会社を抜け出す、という寂しい状況もしばしばだ。もっとも、誘われても絶対に行かないのだが……。 そんな俺がいままでどうにかやって来られたのも、基本的には肉体労働に従事してきたからだろう。カメラマン助手時代は体力だけが勝負だったし、その後就いた清掃の仕事も身体が資本。1年間のアジア旅行も、それはそれは身体を酷使するものだった。俺はスポーツという方法ではなしに、さりげなく身体を動かしていたことに今さら気づく。スポーツはたしかに嫌いだが、仕事として身体を動かす分にはまあ仕方ないかと思える俺である。それが今の仕事では朝出社するとそのまま夜まで机の前に座っているのだ。そういえば、今の会社に入って太ったと訴える男たちは多い。デスクワークに共通の悩みともいえようが、まあ好きで始めた仕事である。俺の体脂肪率が30%を超えるのが先か、それとも観念してダイエットを始めるのが先か見物であろう。 そういえば最近、激しいダイエットに挑戦している女性社員がいる。何でも2ヶ月で9キロの減量に成功したという人に触発されたそうで、先日同席した食事の席では弁当にほとんど手をつけていなかった。女性の信念というのはたいへんなものだ。俺と同じ歳の彼女だが、黙っていれば別にダイエットの必要もなさそう。にもかかわらず毎日夕食抜き、昼食はタッパーウェアに入った野菜少々……というのは切なすぎる。そうして作る「美貌」をどこに向けるのか? 俺にはまったく知るよしもないことだが、女に生まれなくて良かった、と俺は密かに思っている。周知のことだろうが、ムチムチした女性に目のない(もちろん限度はあることを強く申し上げておく)俺のこと。妻の食事にもプロテインを添加したいと思っている俺にはまったく理解できない所業なのだ。 それにしても、妻より自分が先にムチムチしてはシャレにならない。食事に早くプロテインを添加して、俺と同じレベルのボディーに仕立てなければ立場が危ないのだ……! |