恍惚コラム...

第307回

 先週のコラムに、とんでもないことを書いていたのに気がついた。件の「ニコン、フィルムカメラ事業を大幅縮小」という話題なのだが、フィルムカメラのうち当面残されるのは「F6とF100」ではなく「F6とFM10」なのだそうだ。訂正してお詫び申し上げる。とはいえ、ここまで一週間放置しておいても誰も文句を言ってこないのだから、これはいかに読者がニコンのカメラに興味がないか、あるいはこのコラムが読まれていないかのどちらかを証明しているといえよう……。

 しかし今週は、これをはるかにしのぐ衝撃的なニュースが入ってきてしまった。コニカミノルタ、本年3月末をもってカメラ事業をソニーに譲渡。ミノルタよ、お前もか。ブルータスのことはよく知らない俺だが、ミノルタのことはたいへんよく知っている。何を隠そう、俺の写真歴において初めて握ったのがα-5700i、次に握ったのがα-8700iだったからである。長じるにつれ、確かにボディーは京セラコンタックスに浮気はしたが、俺の傍らにはつねにミノルタの露出計があった。で、一昨年の暮れにはDimage A1にプログラムフラッシュ3600HSを買い込んでミノルタライフを再開させていた矢先のこの事件である。世界初の量産型AF一眼レフカメラ・α-7000を生みだし、千代田光機時代から受け継がれる欧州調のレンズを持ち、さらに近年ではCCDシフト方式の手ぶれ補正(Anti-Shake)機構を開発したミノルタがこうやすやすとカメラから撤退してよいものだろうか(趣味人の間ではミノルタのレンズは国産随一と言われる)。一方、先般合併したコニカも国産初のカラーフィルムを供給し、70年代には意欲的なカメラを世に送り出したメーカーだ。1974年には「ピッカリコニカ」とあだ名した世界初フラッシュ内蔵コンパクトカメラ・C35EFで世間を騒がせ、1977年にはこちらも世界初となるAFコンパクトカメラ・C35AFを発売している。今ではほとんど知られていないが、35mm判の一眼レフカメラもしっかりラインナップしていたのだ。意外にも世界初の発明が多いのが両社の特長であり、魅力だったのである。

 カメラ・写真関係に青春の小遣いをほとんど費やしてきた俺にしてみれば、なぜカメラが儲からない商売になってしまったのか皆目分からない。まあ俺が使ってきたくらいのカネではカメラメーカーを救えないのは当然なのだろうが、一時だけでもプロの現場に片足を突っ込んだ立場からするならば、カメラはやはりそれなりの値段がし、生活をそれなりに切りつめなければ手に入らない(あるいは、それ自体が糧となる)尊い存在だったわけだ。ミノルタ・コニカ両社ともプロユースになかなか食い込めない点が凋落を招いたのだろうが、それをものともしない魅力が両社にはあったではないか。そうでなければ、まったく素人の我が父がαを買い、息子がそれを握るという機会もなかったのだから……。

 また、従来の写真趣味においてはさまざまなフィルムを使いこなすことが大きな楽しみであった。しかし昨今のデジタルカメラは当然のごとく撮像素子を内蔵し、フィルム自体を不要としている。俺は今までにも何度か言ってきたし、皆様も感じておられることと思うが、これは「よりよいフィルムを使うためには、カメラ自体を買い換えろ」と言うにひとしい暴挙である。日進月歩のデジカメ業界だ。先日までは500万画素で驚いていたのに、最近では中級機でも800万画素や1000万画素のカメラが登場してきている。銀塩カメラの時代には「高画質には低感度フィルム」「黒白を撮るなら黒白フィルム」という普遍の真理があったにもかかわらず、デジカメ時代はカメラメーカー自体に巨額の開発費を要求し、同時に銀塩材料メーカーの首を絞め、ユーザーにも頻回の買い換えを求めることになってしまったのだ。これは素人考えだが、「プロユースに食い込めないミノルタ」「銀塩材料が売れないコニカ」の2者が合併すれば、こうした流れはもはや必然だったのかもしれない。カメラをめぐる光学技術はすでに熟成の極みにある現在、自前で撮像素子を開発できないメーカーはもはや裏方に回るしかなくなってしまったのであろう。

 それを証拠に、コニカミノルタは昨夏からソニーにデジタル一眼レフカメラの技術譲渡を持ちかけてきた。撮像素子に豊富な経験を持ち、かつデジカメ市場で伸び悩んでいるソニーのことである。コニカミノルタのレンズ資産やAnti-Shake技術は魅力的に映ったに違いない。ソニーはミノルタのA(α)マウントに準拠(要は、今までのミノルタAFレンズがソニーのカメラでもひきつづき使用できるという意味だ)したデジタル一眼レフカメラを今夏にも発売し、レンズ自体はひきつづきコニカミノルタが供給するという。個人的にはミノルタレンズの味が残ることを喜びたいが、ソニーのエンブレムがついた一眼レフカメラを使う気になるか、どうか。「α-7 Digital」の購入を本気で考えていた俺にしてみれば、またしばらくデジタル一眼レフカメラを買えない日々が続きそうである。


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