第270回
先の10.3は、激遅だった10.1、そしてビミョーに違和感のあった10.2に続くすばらしいOSだったと俺は思っている。新興OSゆえのあか抜けなさが次第に改善してゆき、起動時間もシステム自体もどんどん軽くなっていったのは本当に見ていて爽快だった。10.3以来のMacOSのウリである"Expose"(複数のアプリケーションを立ち上げたまま各ウインドウを一瞬にして縮小して一覧できたり、散らかったウインドウを一気にどかしてデスクトップにアクセスできたりする機能)はもう手放せなくなったし、開発者側もOSXの作法に慣れたというか、素晴らしいアプリケーションも続々登場してきた。 そこでTigerである。何か文句を言いたげな口調ではあるが、2週間前の発売日(4月29日)公表と同時に予約してしまった俺。それが昨日届いたからこんな事を書いているのだが、結論から言うと、何か新味に欠けるというか重いというか、最新機種でなければパワーを生かせないカンジがしているのである。 まずはインストール時のお話。MacOSの常として、ほとんど何も考えずに上書きインストールできる点は素晴らしいものだった。今回から(だっけ?)DVDになったインストールディスクを挿入し、あとは画面の指示に従うだけで簡単に行えた。俺の3年落ち・PowerBookG4/667/DVI/Conboの場合、40分ほどですべてのデータを読み出して再起動の指示が出た。 しかし、そこからが長い戦いの始まりだったのである。Tigerの目玉のひとつである"SpotLight"の索引作成に12時間近くもかかってしまったのだ。本機能はMacの中に保存されているあらゆるファイル―フォルダやファイル名はもとより、PDFやWordファイルの内容やeメールの内容までも包括的に―を超高速で検索できるという機能なのだが、その準備に12時間もかかるのは如何なものだろうか。次期Windows・"Longhorn"を先取りしていることでも騒がれている本機能であるが、索引作成中はそちらにパワーを取られて他の作業が遅くなるのが難である。まあ高速なマシンでは気にならないのだろうが、3年落ちノートには過酷すぎる仕打ちであった。確かに強力なマルチタスク機能を標榜しているOSだけあって、他の作業と並行しても停まったりはしないのだが、常にハードディスクがカリカリ回転しているのはたまらない。俺がインストールを始めたのは夜10時頃だったのだが、放置して寝て起きたら本体が激アツになっていた。ただでさえ初夏の陽気である。老体に鞭打つのは辛いモノがあった。一度索引が完成してしまえばもう大騒ぎにはならないのだろうが、インストールしてすぐ満喫したい! という向きには注意申し上げたいものである。先日会社のDOS/Vマシンに入れた「Googleデスクトップ検索」はもう少し軽快だった気がするし……。 また、Tigerはグラフィックカードとの連携をさらに強化した"Core Image"という機能も搭載しているのであるが、これがウチの2台のMac、どちらにも対応していないのが辛い。要はOSからグラボに直接指示を出してさまざまな視覚エフェクトを生み出す本機能なのだが、これがごく最近の高性能カードにしか対応していないのである。Windowsユーザーにしばしば揶揄されるOSXの派手な視覚エフェクトをより進化させたTigerなのであるが、その真の実力を発揮させるには現行品か、1〜2世代前の機種でなければならないそうなのだ。本機能はツールキットとして複雑なフィルタ効果を提供し、Adobe Photoshopばりの効果を簡単なプログラムで(それこそフリーウェアレベルで)実現することもできるそうなのだが、これで書かれたプログラムは旧機種では走らないことも予想される(というか、まず無理なのではないか)。これはまさしくハードウェアとソフトウェアを1社で開発できるアップルならではのアドバンテージなのだろうが、これによって旧機種ユーザーの切り捨てが進むことになったことは残念である。 さらには見た目からしてそれっぽい "Dashboard" 機能も、旧機種には少し重荷になっている気がする。これは先に述べた"Expose"の延長として、クリックもしくはファンクションキーひとつで小さなアプリケーション―計算機や株価の表示機能など―を呼び出せる機能なのだが、このような細かいアプリケーションをパッと取り出して使いたい人がどれだけいるのかは個人的に疑問である。古くからのMacユーザーはこれを見ると「デスクトップアクセサリー(DA)」を思い出すことだろう。MacOS(当時はSystemと呼ばれていた)がマルチタスクを獲得していなかった頃、アップルメニューから小さなアプリケーションを仮に立ち上げてごく簡単なマルチタスクとして使うことができたアレである。それに例のごとく視覚的エフェクトを奢り、ネット時代ならではのニュース機能などをを追加したのがこの機能なのであるが、今や何本のソフトを立ち上げても落ちなくなったOSXのことである。電卓もスティッキーズ(メモ帳ソフト)もすでに揃っているのだから、こういうことはシェアウェアの世界に任せておけばよいと思うのだが如何だろうか(現にこの機能は「Konfabulator」というシェアウェアに酷似したものである)。 まだ使い始めて数時間しか経っていないのでこれ以上の話は別の機会に譲りたいが、まあせっかくの新OSである。アップルはどんどんマイナーアップデートを繰り返してくるだろうから、今後はもっと練れてくるだろう。アップルはこのTigerを機にOSの開発ペースを落とすという噂もあり、これが同社の考えるOSXの完成型となるのかもしれない。 さて、Tigerの熟成が先か、俺が新しいMacを買うのが先か……。ここしばらくは目が離せないMac業界なのである。 |