恍惚コラム...

第235回

 今でもきっと、小中学生諸君は「宿題・勉強は午前中の涼しいうちに・・・」と言い聞かされていることと思う。ラジオ体操のメロディーが流れ、普段は見ることのないオバサンが犬の散歩をさせているのを見つつ、日中とは違う影を持つ街を歩く・・そんな爽やかなときに作業をすれば、それはそれははかどることだろう。だが、夏の朝は涼しいというのはこれまでずっと常識だった訳なのだが、今年は本当に勝手が違う。デリーもバンコクもかくやと思える暑さがここ日本でも味わえてしまうのだ。何だか今年は暑い話ばかり書いているような気がするのだが、これだけ暑ければもう仕方あるまい。今朝は雨が降っているので大分涼しいのだが、この湿気はいかがなものかと思う。あの期待に満ちた朝の涼しさというのはもう訪れないのだろうか。俺は今、夏休み最終日を惜しみながらこれを書いているのだが(8月15日の朝7時である)、何もかもが当時とは変わってしまった気がして切ない気持ちになってしまう。
 
 それにしても、社会に出てから早7年目、まともに会社に勤めて、どこからも電話の掛かってこない完全な夏休みを経験するのは初めてのことである。今まではまあ、休みはあってもいつ携帯電話1本でぶち壊されるかわからなかったり、はたまた盆休みが1日しかないようなところに勤めたりだったので、この休みは本当に有り難いことだ。世の中には様々な仕事があって、それぞれが社会に欠かせないものだということは重々承知しているつもりなのだが、やはり休める仕事とそうでない仕事の間には深くて大きい河が流れている。そんなきれい事が通用しないのもまた承知なのだが、今までの仕事があまりにも優雅でなさすぎたので、俺は今この優雅さに参ってしまっているのだ。初めから「この仕事は夏休みが何日もらえるか」という事を念頭に置いて就職活動をする人はなかなかいないだろう。そこそこの規模の会社ならまあ常識的にもらえるのだろうという事は予想できるだろうが、俺のように何もかもが中途半端な経歴になってしまった人間の場合、そんな誰でもが名前を知っているような会社に入ることは当然能わないから、そこから先はもう運次第ということになる。で、俺はひとまず夏休みが4日も(?!)もらえる会社に入ることが出来たというわけだ。
 
 (?!)というのは決して皮肉ではないのだ。本当に、これは俺の中では最高記録なのである。どんな階層の方がこれをお読みになっているかは分からない。しかし、世の中、1日しか休めない人から10日も休んでしまう人までいる中でこの4日というのは俺にとっては大金星なのである。昨年丸一年を遊び暮らしておいて言うのも何だが・・・。
 
 で、その夏休みを利用して俺が何をしたかと言えば、実は何もしていないのである。さんざんこの夏休みを賛美しておきながら結局はこれである。妻がカレンダー通りに仕事をしているので一人で遠出をするわけにもゆかず、今までの着の身着のまま暮らしの代償としてボーナスも使い果たしてしまった。・・・結果、俺は今まで3日間をスーパーマーケットに行く以外はずっとアパートにいたのである。この休みこそは「写真部用語事典 レジェンド」を完成させるぞと意気込んでみたり、今度こそこのコラムを平日に書いてみせるぞと思っていたのだが、結局何やかやで中途半端に終わってしまった。冒頭に夏休みの宿題の話を書いたのはそういった事情からである。4日であろうと、40日であろうと、小人閑居して不善を為す。まさに俺に相応しい言葉ではなかったか。
 
 しかしそれにしても、何もしなかったという意味のことをここまで書き続けるのは大変な作業であった。

 
 



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