恍惚コラム...

第232回


 昨年の今頃はインドにいたのでよく分からないのだが、今年の日本は昨年の冷夏とはうって変わって酷暑に見舞われている。先日は千葉あたりでも気温が40度に達したそうで、まったく日本もあなどれない国になってしまった。まあそれでも、俺が背広を脱がずに着込んでいられるのはインドでの鍛錬のたまものかもしれない。何しろガヤーというところでは気温48度、その最中を冷房もない安宿でしのいでいたのだから、インドの人々の苦難を思えばこれしきの暑さ、ではある。だがやはりエアコンを最強にしても全然涼しくならないこの現状には冷や汗の出る思いだ。ウチの安エアコンが効かないのは納得できるにしても、会社のエアコンまでもが効かないのには恐れ入った。エアコンというのは外気温がある程度高くなってしまうとそれ相応に効きが悪くなるのである。つまり、この暑さが人智を越える程度にまで達してしまったと言うことであるから、これはもう憂慮せざるを得ない状況だと言えよう。温帯に位置するこの国がそれなりの経済発展を遂げられたのはひとえに冷暖房のおかげだと俺は思っている。ロシア極東の極寒、そして東南アジアの酷暑。緯度的には大して変わらないこれらの国々がなぜ効率が悪いのかと言えば、それはやはり気候を自分たちでねじ伏せるということをしてこなかったからだと思う。現に、発展著しいシンガポールやタイ、中国沿岸部や台湾・香港などではかなりの勢いで冷房が普及している。元来、この辺りの国の人々は寒ければ寒い、暑ければ暑いなりにそれぞれ過ごしやすいように生きてきたのだ。それを日本という国は恒温化し、1年中いつでも働きやすい環境を作り上げてきたのであるが、空調が今後使えなくなるときが来るとすればそれは日本経済の衰退を意味するだろう。人々は早朝の涼しい時間に起きて働き、昼間は寝て過ごし、また夕方になると活動を開始するというような時代に逆戻りすることになる。
 
 だが、それを「逆戻り」と評する事自体が人間的ではないのかもしれない。自然の摂理のままに生きるという、生物の原則に従うのであればそれもまたありなのであろう。
 
 街中ではポケットティッシュの代わりに扇子や団扇を配るのが大はやりである。そういえば、冬の朝に水道が凍り付くのも最近ではまれになってしまった。日頃から「日本熱帯化」を叫ぶ俺ではあるが、やはり暑さもそこそこにしていただきたいと思うのである。
 
 話はうって変わって、先日は社員旅行で韓国に行ってきた。近くて遠い国・韓国。俺がアジアを旅してきたという話をするときまって「韓国には行ってなかったのか?」と驚かれるのだが、あの国は大陸に繋がっているにもかかわらず、島国のようなものなのだ。そう、北側を北朝鮮が阻むこの国は旅の始点には不向きなのである。大陸をそのまま旅しようとする者にとっては実にむずがゆい話だ。北朝鮮を普通に通り抜けることができれば、福岡から釜山に行ってそのままパキスタンやトルコ、あるいはスペインやポルトガルも夢ではないのにまったく惜しい話だ。
 
 さて、そんな韓国旅行だったのだが、バックパッカーの性が染みついた俺にとっては驚きの連続だった。飛行機は日本航空で、ソウルの空港に着けばそのまま全行程日本語ガイド付き。日程通りに動くツアーではメシを喰う場所も全部決まっていて、一度も外国語を話す必要なしに進む旅は違和感ありありなのだった。何しろ、立ち寄った市場でも日本語が通じるのである。時間がなくて韓国語の数字も覚えて行かなかった俺なのだが、かの国の商人は日本語で値段を言ってくるのである。「1万ウォン、センエン千円」・・・。予想はしていたのであるが、彼らは本当に日本人に慣れている。反日感情とかはどうよ?と訊きたくもなるのだが、観光地では日本語の看板が林立していたし、どこにでも日本語のパンフレットが置いてある景色にはまったくそういう色は見られなかった。まあ、日本人から取れるだけ取っておこうという考えも当然あるのだろうが・・・。当然「ヨン様」のポスターは日本人に大人気で、マダム目当ての土産物店には必ず置いてあった。
 
 韓国といって必ず連想されるのが激辛料理の数々なのだが、これも純日本人向けのツアーのためかまったく期待はずれ。日本語ガイドは「韓国料理は案外甘いのです」と言っていたが、これなら日本で食べる韓国料理の方がウマい、といった印象。韓国名物カルビ焼き肉のタレも何だか甘口で、これなら安楽亭の選べるタレの方がなかなかどうして・・・なのである。これは是非、個人で言って韓国料理の真実を究明してこなければなるまい。俺たちは本当に韓国料理を食べたと言えるのか否か・・・。自由時間に街中を歩いて見かけた庶民向けの食堂からはイキのいい店員の声と肉を焼く煙が立ち上っていたのだが、やはり貧乏旅行の方が本当の味に触れられるものなのかもしれない、という思いだけが残った旅行なのであった。また是非訪れてみたいものなのである。そんな暇があるのかどうかは別にしても・・・。


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