今日は参院選の投票日だったわけだが、何と今回は罪人でも禁治産者でもないのに選挙権がなかった俺なのである。選挙にはつきものの投票所の入場券がなかなか送られてこず、昨日までついにやって来なかったので選挙管理委員会に電話をしたのだが、回答は何と「3ヶ月以上現住所に居なければ選挙人名簿に登載されない」とのお答え。現住所はさいたま市なのだが、ここに引っ越してきたのは4月の23日。確かにこの住所で投票に行くのは無理そうだったので、今度は帰国直後に世話になった実家のある川越市の選管に電話をしてみるとまた同じ答えなのだ。「3ヶ月以上現住所に居なければ選挙人名簿に・・・」そういえば、あの長旅が終わって川越市に住民票を移したのは今年2月半ばのこと。そこで俺は昨年丸一年旅をしていたことを告げたのだが、その場合はなんと、在外公館で海外投票の手続きを取っておかななければならないのだという。川越市にはタイ王国からの転入になっている今回の俺。7月の参院選に備えて、海外で手続きを取っておかなければならないことなどつゆほども知らなかった。まあ要は、投票をしたければバンコクまで戻って日本大使館に行け、という事なのである。いくら年金改悪や多国籍軍への参加に怒ったところで、バンコクまでの往復チケットを買う気力も暇も財力もない俺なのである。つまり、事実上今回の選挙に対する選挙権が俺にはなかったというわけだ。
たまに選挙に行こうと思えばこれである。今現在、どのくらいの投票率になっているかは不知なのであるが、まさか選挙に行こうとしても行けない状況に自分が追い込まれるとは思わなかった。何しろ問題山積の中での選挙である。何事も、しようとした途端にうまくいかなくなるのは俺の習い性のようだ。
選管で、電話に出た役人も「これは制度上の欠陥で・・・」と言っていた。俺のような極端な例はあまり見られないだろうが、最近転居した方、これから転居される方は要注意なのである。下手をすると、とんでもない遠隔地で投票をしなければならない事になるから。
さて、選挙の話はこれくらいである。次は恒例の歯が痛い話だ。歯学書の出版社に勤めていながら歯が痛いとは情けない話なのだが、このコラムで歯の話を書くのはもう3回目。お陰様でたいした病気もしたことのない俺なのだが、歯と目だけはどうにも克服できないウィークポイントなのである。
例の旅に出る前に、半年ほど歯医者に通って徹底的に治療した俺である。前の仕事は休みが日曜日しか取れなかったので、貴重な日曜日を潰しながら近所でも名うてのヤブ医者に通い続けたのである。今勤めている会社の取締役編集部長曰く、「世の中の9割はヤブ医者よ〜。特に夜遅くまでやってる所とか日曜日に開けてるところはそれだけ儲かってないってことだから、それほど腕が良くないってコト」なのだそうで、旅が終わってみれば一気に不具合噴出の俺の歯なのである。
何しろ、俺の右側の親知らずは旅立つ前に抜歯をしたのだが、まだ歯根が残っているのだ。これをどうするかで他の医者にも意見を求めたのだが、時間がなくて結局抜歯を断念。近所で評判のいい医者曰く、「このままで済めばいいですが、不具合が出たらこれは大学の口腔外科などで処置した方がいいですね」とのお答え。で、仕方なくそのまま旅に出て、帰ってきて歯学書の出版社に就職し、毎日毎日歯の写真を見つめていたらだんだん自分の歯が痛くなってきたというわけなのである。
さっそく、会社の人脈を生かして某国立大学の歯科に行った俺。さんざんレントゲンを撮られ、出た結果は「親知らずではなくて、その手前の歯の歯髄炎(要は、虫歯が進行しまくって歯の随の神経が炎症や壊死を起こしている状態)らしいので、他の開業医を紹介します。大学病院では受け付けが午前中だけで不便ですし。親知らずはそのあとじっくりやりましょう」との事だった。
歯科の世界というのは学閥が何よりもものを言う世界である。同じ大学の医師同士は一生それに縛られるし、同窓生同士で研修を行ったり仕事を融通しあったりするのは日常茶飯事なのだ。で、俺はそこの大学出身の別の医師に紹介されて行ったのだが・・・。
40代の、脂の乗りきった医師であった。俺が自分の会社の名刺を受付嬢に渡すとすっ飛んで来て、その受付嬢に「こういう人は俺に直接通さなきゃダメじゃないか!」と檄を飛ばしている。まあこれは俺の実力ではなくて会社の威光なのだが・・・。で、うやうやしく俺の歯のレントゲン写真を見た氏曰く、「んー、キミはこういう業界に入ったのだから、最先端の医療を受けるべきだ。エンド(Endodontrogy,歯内療法。要は歯の随の処置である)なら俺の知り合いにもっとスゴイ先生がいるから、そっちに行ってくれたまえ。で、8番(親知らずの根が残っている位置である)は俺にやらせてくれ」と。ん〜。仕事を抜け出して後楽園までやって来たのに今度は四谷まで飛ばされる俺。しかも、8番は大学でもうお願いしてあるんですが・・・。どうもこの埋伏っぷりが口腔外科魂を刺激するらしい。あんまり忙しくない時期だからいいようなものの、とことん翻弄されまくる俺なのだった。
で、その四谷の医院に行ってみれば、まるでカフェかブティックと見まごうような美しさ。で、ここでも名刺を出して「◎◎先生からの紹介なんですが・・・」と告げると院長登場。アメリカで本場の歯内療法を学んできたエキスパートである。診療室に通されて超高級歯科ユニットに寝かされると、頭の上にはカール・ツァイスの実体顕微鏡と液晶モニターが。そう、ここは顕微鏡下で精密な歯内療法を行うスゴイ歯科医院だったのである。黙々と歯を削ること1時間。んー、液晶モニターで自分の歯が大写しになっているのを他人事のように眺めながら診察が終わると、その院長氏がこう切り出してきたのだ。「(現状の保険制度や日本の後進性を語りながら)・・・今後も続けるなら自費で7万8千円になりますが、どうします?」
何ですとぉー!7万8千円!?保険じゃダメなんですか?さすが最先端医療だ。さすがに即答は出来ず、会社に戻って編集部長に相談する俺。だって、むげに断ったら今後執筆してくれなくなるかもしれないわけで・・・。すると編集部長曰く、「えー、◎◎先生自分でやってくれなかったの?しょうがないわねぇ〜。で、●●先生?保険でいいわよ保険で。」・・・そうですか。
そんなこんなでずいぶん前置きが長くなったのだが、これの治療中で歯が痛い俺なのである。保険を使っているので院長は登場せず、その弟子の先生に診てもらっているのだが、俺の歯内はずいぶん複雑なようで治療に手間取っているのである。おまけに麻酔も効きにくい体質だから、毎回毎回断末魔の苦しみなのである。昨日も歯髄をほじくって、それが未だに痛い・・・。
思えばこの十数年、全く歯の心配をせずに生きてきたことのない俺である。これを機に完全な歯を目指すのも悪くない。しかし、道のりはずいぶん長そうだ・・・。読者の皆様におかれましてはくれぐれも歯を大切にと申し上げておこう。芸能人でなくても歯は命なのである。
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