恍惚コラム...

第228回

 自慢にもならないが、実家を出て以来NHKの受信料をまともに払ったことのない俺である。相次ぐ勧誘を払いのけ、時には俺の留守中に妻が1ヶ月分払ってしまうというアクシデントに見舞われつつもここまで無事にやって来たのである。嗚呼、何と平穏な暮らしだろう。
 
 常々不思議に思っているのだが、何故にああした勧誘の類は引っ越し直後のジャストタイミングにやって来るのだろうか。新居にようやく荷物を運び込み、これからの暮らしに思いを馳せているとすぐにやって来る勧誘人というのは全く興ざめである。そんな事に目を光らせている暇とカネがあるのなら、既存の客に対するサービスをもっと考えるべきだろう。何しろ、新聞もNHKも、本当に欲しい人は自分から申し込むものではなかろうか。事実、俺は今回の引っ越し後すぐに最寄りの新聞店に電話をし、不愉快な勧誘を避ける事に成功したのだ。彼らとて、そういう客が増えた方が気持ちいいのではなかろうか。その後、ビール券10枚を盾にねじ込んできた他社の勧誘員に読○新聞を3ヶ月間契約させられるというアクシデントには見舞われたのだが・・・。
 
 しかし、NHKはなかなかしぶといのであった。引っ越し直後で、「本当に」テレビがなかった頃にお断りして早2ヶ月。玄関に貼ってあったNHKシールも剥がしたし、集金人の姿も現れないし、これで一安心と思っていたが甘かった。昨日帰宅したところ、ポストに黄色い紙が入っていたのである。曰く、「テレビをお備えの場合は、放送受信料(住所を変更された場合は住所変更届)が必要です。本日は、そのことでお伺いいたしましたが、あいにくお留守でしたので、あらためてお伺いいたします。夜間も訪問させていただく場合がありますのでよろしくお願いいたします。なお、お客様のご都合の宜しい日時等ございましたら下記までご連絡下さいますよう御願い致します。」云々。ついにやって来たか・・・。しかも、夜間に来ることまでほのめかす傲慢さで。
 
 果たして、ヤツはやって来た。しかも夜間に。夜8時頃のことだったのだが、こんな時間にやって来るのは新聞勧誘員かNHKと相場は決まっている。宅配便のお兄さんなら、元気に挨拶するはずだろう。俺はドアの覗き窓から初老のセカンドバッグ男を確認すると、いやいやながらインターフォンの受話器を握った。どんな口上で追い返すべきか。こんな事を書いているが、実はとても小心者の俺のことだ(だからビール券10枚で懐柔されてしまうのである)。内心はドキドキなのである。
 
 「・・・はい。」
 「NHKの方からご契約の・・・・」
 (ガチャ)
 
 言うに事欠いた俺は、NHKという言葉が聞こえた瞬間に受話器を置いたのである。ああ、何て弱気な俺。だが、俺は断固として受信料を払うわけにはゆかないのである。ウチのインターフォンは玄関ドアから離れているので、ヤツがどんな反応を見せたのかは分からなかったのだが、とりあえずもう2度だけチャイムを鳴らしただけで無事に退散したようだった。やれやれ、ヤツにも生活がかかっているのかも知れないが、こちらの暮らしもなかなか大変なのである。年間1万5千円少々はやっぱり高い。
 
 大体、電波という形のないものを頼みもしないのに発射しておきながら、それに対する代価を支払えという論理に無理があるとは言えないだろうか。電線を伝わってくるもの―電話・電気・ケーブルテレビ―であれば、俺も素直に払う気になろうというものだが、電波はやはり別である。何処でも誰でも受信機さえあれば受信でき、それに関する記録を残す手段もない以上、これは平等さに欠けるのでないか。日本国内にあるテレビの台数と、支払いの対象になっているテレビの台数の差がどのくらいあるのかは知らないが、そこには相当の乖離があるはずである。今や携帯電話やカーナビでテレビが見られる時代である。NHKにはテレビ付きケータイを持っている人を追いかけていってまで受信料を徴収する覚悟がおありだろうか?これ見よがしにアンテナを立てているクルマを追跡する用意は如何か?そうそう、PCに内蔵されているテレビチューナーはどう解釈すれば良いのだろう・・・つまり、どう考えても全員から徴収できるはずがないし、ケーブルテレビ専門にしてしまうかデコーダーを介する方式にしない限りこのいたちごっこは終わらないのである。そして全ての抜け道が塞がった時に、国民がカネを払ってまでも見たくなるような番組を用意しなければなるまい。(もしくは、契約をしない限りテレビ受信機は販売できない決まりにするとか・・・?!)
 
 ちなみに、こんな法律もあるにはあるのだ。
 「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし、放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送(音声その他の音響を送る放送であつて、テレビジョン放送及び多重放送に該当しないものをいう。)若しくは多重放送に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない。(放送法32条)
 
 だがしかし、この法律には罰則規定がないのである。つまり、契約をしないことは確かに罪なのだが、罰が用意されていないという微妙な状態なのである。この不備(?)を解消し、徴収の不平等がなくなるまでは、誰が何と言おうとNHKに金を払うわけにはゆかない俺なのであった。
 



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