第221回
先週は数年?ぶりに定期更新を落としてしまった俺なのだが、今週からはいよいよ新居からお送りできる運びとなった。その原因となった今回の引っ越し。もちろん今回も業者は頼まずに自前でやらせて頂いたんである。レンタカー屋でハイエースバンを2日間、2万8千円なりで借り出しての作業。今までに何度か引っ越しをしてきた俺なのであるが、未だに誰の手伝いも、引っ越し屋の手配も必要としたことがないのである。あまりのモノの少なさがそうさせるのか、それとも妻の怪力がそうさせるのかは分からないが、とにもかくにも何とか2日間で必要な物資を部屋に運び込むことに成功したのだった。 前回、埼玉県の富士見市という所に引っ越した時には夜逃げの余波が残っていたから、仕事のないまま何とか頼み込んで部屋を貸してもらった俺たちなのである。しかし、今回は仕事が決まってからの引っ越しだったので忙しさはひとしおだった。部屋を3日間で決定し、平日は一切動けないので土日のみの真剣勝負。翌週も車を借りるとなればその場で2万8千円の追加が決定なので全く気が抜けないし、荷物を運び込んで以降の平日は妻が一人きりで部屋の片づけをしていたので申し訳ないやら思い通りにならないやら、折角俺史上最高級ハウスに住んでいるというのに何だか他人の家になってゆくような気がして一抹の寂しさを感じたりしたものだ。以前の引っ越しでは無職状態だったからいくらでも時間があったのに、堅気な社会人の引っ越しはなかなか大変なのである。 そんなわけで先週の前半はもう台所に蒲団を敷いて寝ていたのだが、やっと昨日(04年4月30日)あたりから通常の生活が出来る状態になったところなのである。その昨日からはかねてよりの懸案だったADSLも開通し、やっと、まあ何とか文化的になってきたのである。インターネット環境では帰国以来ずっと苦労していたからなぁ・・・俺の実家にはパソコンなぞをたしなむ人間が全く居らず、当然ブロードバンド環境などは望むべくもないのだが、頼みの綱のアナログ回線も何だか普通より遅いのである。一応築3年目のキレイな家なのにもかかわらず、どうにもノイズが乗るのだ。ユーザーの認証に失敗するのは当たり前、接続できてもメール受信だけで精一杯。で、それさえも数分待たされた上にエラーで中断してしまうのだからたまらない。Webページを開こうものなら昔のファクスのような遅さで、自分のサイトすらろくに見られない状態が続いていたのだ。そんなわけなので昨日以来ずっと親の敵のようにファイルを落としまくったりストリーミングを見たりしている俺なのであるが、個人的には引っ越した事よりもこちらの方が嬉しかったりして・・・。 旅をしている最中にはもう3日おき、5日おきに宿を渡り歩いていたものだから、その延長線上でサクッと決めてしまったこの部屋。何の変哲もないアパートなのだが、しかしどの国の安宿にもない特徴をこの部屋は備えている―いつでも湯が出る蛇口。3方にアルミサッシを奢った明るい窓。そしてガス台があって自分で料理ができ、冷凍庫で氷を作ることが出来る。29インチのテレビからはいつでも日本語が流れていて、インターネットにも繋ぎ放題―これらの特徴には、一つ一つであれば偶然出会うこともあったのだが、これらが全部揃っている部屋にはあの貧乏旅行の中では出会うべくもなかったのだ。そんなわけで、その全てを一度に手に入れてしまったこの喜びとあっけなさには複雑なものがあるのである。それらは日本で人並みに暮らすためにはどれもが欠かせないファシリティーではあるのだが、俺が旅してきた彼の国々でのそれらの価値を考えるに、このくらいの年齢の男が一度に全部手に入れてしまうというのはとんでもない贅沢なことのように思えるのだ。日本の冬は寒いからお湯だけは何とか許してもらうにしても、こんなにでかいテレビは必要ないし、冷蔵庫も必要のあるときだけ欲しいものを買ってくれば不要かも知れない。現に俺たちはテレビがなかろうがネットがなかろうが、ぬるい真水を飲みながら長い夜をじっと過ごしてきたのだ。(どうせテレビを見たところで言葉が分からないのだったが・・・。)日本から持参した数少ないガイドブックを暗記するほど読みながら、俺は日本の贅沢さを思ったものだが、いざ日本に帰ってくるとそれが当たり前になってしまうところが悩ましいところである。 もう、きれい事は言えないのだ。話が大きくなってしまうが、アメリカ人は石油が欲しいからイラクを支配したがっている。自分の国でも石油は採れるにもかかわらず、それでは飽き足りないからああいう事をするのである。もし、アジアの人々が皆電気と電話を引いてブロードバンドを楽しみ、トイレットペーパーでケツを拭きたいと言い出したらアメリカはどんな顔をするだろうか。実行に移されればたちまち世界の資源は枯渇し、この地球の寿命は縮まるだろう。世界の一部の人しか出来ない暮らしぶりというのには土台無理があるのである。誰もが無条件に平等でいられるはずはないし、生まれた場所は運でしか選べないから仕方ないのではあるが、この新しい部屋を見るにつけ、時間通りに必ず来る列車に乗るにつけ、そんなことを厳粛に考えてしまう春の新生活なのであった。 いよいよ今週末にはオフ会です。皆様お誘い合わせの上、ぜひご参集下さい・・・。 |