しりとり専用掲示板の方でも先日お話した通り、俺は先日会社に退職願を出し、2月からまた暫く流浪の旅に出る事が決定したところなのである。これで普通ならばこれから始まる旅の事で頭が一杯になる所なのであろうが、俺の場合「会社」に「退職願」などという大層な物を出す行為自体が初めてだったので、その事でエネルギーを使い果たしてしまった感がある。
皆様ご承知の通り、俺の前回の海外行きは仕事で揉め、サンクチュアリを求めて追われていったというのが主たる理由だったから「退職願」もへったくれもない「夜逃げ」的な退職劇を演じたのであった。それから学生時代に散々やったアルバイトの時も、「卒業」という時限爆弾が勝手に作動して退職へと導いてくれたから楽なものであった。しかし今回ばかりは理由が違う。この不景気なご時世に海外でフラフラしたいからというだけの理由で会社を辞めようというのだから穏やかでない。何しろ前職の時に仕事というものは生涯を捧げるものだという観念を得、それを暴力やレイシズムの為に一度破壊されているものだから仕事を辞めるという事に対して妙な恐怖感を植え付けられてしまっているのだ。
とはいえ、30歳になる前にもう一度アジアを旅する、というのはもう2年以上も前からの妻との約束なのである。結婚式も指輪もやれなかった妻を労って・・・とは言わないが、あれを買えとかこれを買えなどと言わず、そして化粧っ気もない妻の願いを叶えなければバチが当たるような気がしていたのである。もちろん仕事を辞める事に対する抵抗はあったが、2年余り前の俺の生返事をよそに妻は3つのパート・アルバイトを掛け持ちして、この僅か2年という期間で本当に350万円を溜め込んでしまったのである。信じられないかも知れないが、決して俺の給料がいい訳ではないのである。現に俺のいる会社の夏冬のボーナスは0が4つしか付かない額なのである。・・・これではどう見ても行かない訳にはゆくまい。
2003年の2月頃(2月というのは妻の誕生月である)、という大体の目標もかなり前から決まっていた事なのである。最初は「2年先だ」「1年先だ」と軽く流していたものの、半年を切ってからは早かった。昨年も末になると今年の予定が入り始めたりしたのだが、かなり後ろめたい思いがしたものだ。もう今では辞めると宣言してしまったから気楽なものだが、先月あたりの見積もり作業は内心捨て鉢な心持ちで掛かっていたのである。終身雇用制が大分崩れてきた昨今ではあるが、お客の方は「この人はずっとこの会社にいる」というつもりで話をしてくるものである。「来年も宜しく」とか「来年度の予算は」などという言葉に真綿で首を絞められる思いで俺は昨年の年末を過ごしていたのだ。
元々が前職で「貴様なぞ掃除屋くらいがお似合いだ」と言われて飛び込んだこの業界。前回の高飛びから帰国して、実はミニラボの店員になろうとしたこともあったのだが結局清掃員のアルバイトとして俺は今の会社に入ったのである。それから暫くはアルバイト扱いで様々な現場への移動の日々を過ごし、その後1年経って何故か営業職での社員として採用されたのだった。繰り返しになるが、この不景気のご時世に俺のような何の技能もない男が社員でいられるという事は奇跡的な事だったと思うのだ。帰ってきた時に俺が何で生計を立てるのかまだ分からないのだけれど、この会社での事は某かの糧になるものだと信じる。
話は前後してしまうが、退職願を出すのは何でも直属の上司からと言う事になっているようなので、俺はまず部長を居酒屋に呼び出してサシで話をしたのである。大体、部下が話があると言って上司をこうして呼び出す時には大概そいつは辞めたがっていると相場は決まっている。ウチの部長もその気を感じつつ、しかしポーカーフェイスでその席に現れたのだった。お通しが出て、中生が出てくるまでの間がとても長く感じたものだ。で、白い封筒に入った退職願。なおも部長はポーカーフェイスで笑みさえ浮かべながらその封筒を開いたのだった。退職願、という3文字が部長の目に入ったタイミングを見計らって俺は饒舌にこの放浪計画を話したのだった。で、結果としては「好きにやれ」、と。部長氏も若い頃そうした友達を何人も見送った事があるから、御前もまあ出来る限り行ってこい、との事だった。団塊の世代で、かつ学生運動なぞもかなりやったクチの人である。まあ俺も部長は通るな、と目論んでいたのだが。
しかし社長や専務クラスはそうは行かなかった。部長がかなり俺に有利になるように話を通しておいてくれはしたのだが、「あくまで休職扱い」の一点張り。俺がいくら「今までお世話になりました」と言っても、「ああ、まあ早く戻ってきてくれるよう頼むよ」と・・・。何だか後味の悪い思いをしたのだが、これでようやく今月末から自由の身になることを確定する事が出来たのだ。(休職とは言っても無期限だし、戻らなくても咎められる筋でもない)あとは仕事をうまく引き継いで旅の計画に専念しなければ・・・。
そんなわけで、今は仕事の引き継ぎやら挨拶回りやらでこれまで以上に忙しい日々を送っている。2月に入るまでは旅行の手配も十分に取れないような状況だ。しかし来月になればまたそれはそれで新しい困難が待っていることだろう。このサイトの処遇は先日しりとり専用掲示板に書いた通りではあるけれど、また改めてそれっぽく書きますんで宜しくお願いします・・・。
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