第187回

 

CEOのカメラ思い出話
(16)「俺のじゃないカメラ達・パート7」の巻

 俺のじゃないカメラの方が多いよな、この連載・・・。まあそんな事は気にせずに今週も参りましょう。今回はコンタックスプレビューとEOS−1のお話。ええ。いずれも俺のじゃありませんです。

・コンタックスプレビュー
 この奇妙な名前のカメラをご存知の方は相当なカメラマニア、或いは業界人だろうと信じられるこのカメラ。一体どのような用途に用いられるかお分かりになるだろうか?「プレビュー」と付いているからと言って何かの試作品というわけではないのである。それではヒント。通常の135サイズのフィルムは使えません・・・。そう、このカメラはまさに撮影前に露出や構図を「プレビュー」するためのカメラなのである。だからボディーは極薄で、普通のフィルムではなく10枚綴りのパック式インスタントフィルムを使うシロモノなのである。一眼レフカメラの真後ろにインスタント用のフィルムバックが付いたものだと思って頂ければ間違いない。というよりも普通のフィルムバックに後からシャッターやミラーボックスを付けただけ、そんな風情が漂う武骨なカメラなのである。およそ他のコンタックスのような優雅さは漂ってこない。

 プロの現場では「ポラ」(ポラロイドの略、でも本家ポラは高いので富士のフォトラマフィルムを使っている事の方が多い)を撮ることがしばしばある。カメラマン自身が露出の具合を知りたい(リバーサルほどではないが露出がシビアなので役に立つのだ)という理由も多いのだが、立ち会いの編集者に自分の写真のイメージをそのまま伝えたり、はたまた物撮りの現場などでは編集者が撮りたてのポラを自ら切り取ってページのラフに貼り付けたりする関係でもポピュラーな存在なのである。皆様も男性向け雑誌などで「○○ちゃんの生ポラプレゼント!」などという文言をご覧になった事があるだろうが、これは元々は撮影最中のモデルや編集者に「今こんなカンジで写ってるよ〜ん」と見せたものを読者に放出しているわけなのである。ポラは普通のフィルムで撮るものと違って簡単には複製が出来ないからその点の希少性もウリになるわけだ。

 さて、様々な現場でポラに接してきた俺なのだが、35ミリ判でポラだけのために作られたカメラというのはこの「プレビュー」が唯一無二の存在だと認識している。中判以上のカメラではフィルムバックの脱着が容易なので比較的簡単にポラを導入出来るわけなのだが、35ミリ判でポラというのはそれだけで大変な投資を必要とすることなのだ。前職の時の「師匠」はこのプレビューをニコンFマウントに換装して使っていたのだが、これはコンタックスをわざわざ買ってマウントを換装した方が安上がりで便利だったからに他ならない。一般の1眼レフカメラでポラを撮れるようにするアイテム(裏蓋にポラを付けられる)もあるにはあるのだが、ポラに切り替えるたびにあの細かいピンを操作して裏蓋を外してから交換しなければならず、またピント面を後方に移動させるための光ファイバーのブロックが高価という事情からその種のフィルムバックは20〜30万円もするのだ。裏蓋の交換が面倒だからといって1台潰してポラ専用にするという選択肢もあるにはあるのだが、それではあまりに不経済だろう。その点、プレビューの定価は10万円台中盤だったと記憶しているからとってもお得。しかも面倒な裏蓋交換によらずレンズ交換一発でポラが撮れるので、師匠に限らず様々なカメラマンがこの「プレビュー」を使っているわけだ。ちなみにニコンマウントに換装されたプレビューは結構多いようで、偶に中古市場にも出回っているのを見かけることがある。但しそのように換装されたマウントでは自動絞りが使えなくなっているので扱いは少々面倒になる。

 このプレビューなのだが、インターネットで検索していくつかの画像をご覧になって頂ければ分かるようにこの潜望鏡のようなファインダーにいつも気を遣ったものである。このすぐに折れそうなファインダー。これが年数が経つとすぐに緩くなってブラブラしてくるのですぐに落としてしまうのである。これで何度叱責されたことか・・・。それからボディー正面下部にネジが何本かあるのだが、これが非常に緩みやすいのだ。ある時ふと見ると1本無くなっていて、別に機能に支障はないからいいじゃんと放置していたら目ざとく発見されてこの件も数ヶ月責められたあの頃・・・。壊れやすいカメラというのはカメラマンに迷惑なのではない。・・・アシスタント殺し。この1語に尽きよう。しかしシャッター関係は全く頑丈なカメラで、大きな故障というのは見た事がない。というのもこのカメラ、完全メカニカルの1/1000秒のシャッターを搭載していたのだ。しかも露出計もなし。つまりメカ的には壊れる要素がかなり少なく出来ていた。その点はなかなか有り難いカメラだったと言えよう。

 まあ普通に生きていれば2度と巡り会う事のないカメラだろうと思う。プレビューを握る=プロの現場に居るという事だから。もし酔狂な読者の方が入手されたら喜んで使い方を教えに参上しようと思ってますんでその節はよしなに・・・。

・キヤノンEOS−1
 言わずと知れたキヤノンのフラッグシップだが、これの初代型が自分の家の押し入れにしまい込まれている事は「ニコンFM2」の項にも書いた通りである。まあ俺自身がこのカメラで何か撮ったかと問われれば「殆ど無い」わけで、個人的な思い出はほぼ無いのであるが、このカメラの軍艦部に貼られたシールを見るたびに学生時代の思い出が蘇ってくるのである。

 大学2年の頃だったか。当時でもEOS−1はキヤノンの旗艦だった。俺なぞは自腹で旗艦機を買った事のない人間なので周りのEOS−1やらF4ユーザーを冷ややかな目で見ていたのだが、そんな同期のEOS−1ユーザーの中にカメラマンの倅のボンボンが居たのである。で、その彼がある朝一の授業前に自分の現・妻にこう話しかけたのだった。「保護用シール要らない?」最初は何の話か俺も分からなかったのだが、これはEOS−1の軍艦部左側の3つのボタンを保護するためのもので、プロサービスでしか手に入らないシロモノだという。貰えるものだと俺も彼女も思ったので早速頂戴して軍艦部に貼り付けたのだが、「1枚500円(確か)ね」と言われて吃驚したという思い出・・・。学生風情がこんなモノ(プロストラップ並みに入手しづらい物だったと思われる)を持っているという驚きもさることながら、まさか有料だったとは・・・。そんな小さなこと、と思われるかも知れないが何故かこのエピソードがいまでも脳裏から離れないのだった。

 しかし押し入れに仕舞いっぱなしの旗艦機・・・これこそ真の贅沢とは言えまいか。一戸建てを買って住まない、或いはセルシオを買って乗らないのと同じくらいの贅沢だと思うのだが如何だろうか。でも取り出して出してレンズ磨いたりしたいとは思わないのである。だって嫁さんのだし。

(来週につづく)



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