CEOのカメラ思い出話
(14)「俺のじゃないカメラ達・パート5」の巻
今回はコンタックス話を2篇。知らないアナタもきっと欲しくなる・・・。
・コンタックスRTS2
ニコンにFヒトケタ、キヤノンにEOSヒトケタがあるように、コンタックスのカメラにもそうしたフラッグシップ機というものがある。「RTS」―そう、この名前を初めて冠したカメラが1974年に発売されて以来、「同2(1982年発売)」「同3(1990年発売〜現行)」はコンタックスの最上級機種として君臨し続けているのである。で、俺はその「2」を、確か1年と少し所有したことがある。
このカメラは、俺は大学時代にアルバイトをしていた時に知り合ったカメラマン氏に譲って戴いたのだった。確か20歳か21歳の頃に。ある雑誌の編集部で「あー上がり待ちウザイわ〜」とか「自分のポジくらい自分でチェックしろやヴォケが!」と思っていた、あるけだるい午後。その話は突然やって来たのだった。「若林さ、今修理に出してるRTS2があるんだけど、もうあんまり使わなくなってるから修理代出してくれたらあげるよ〜」と。カメラマンに話しかけられる時というのは大概ロクでもない用件が多い(早朝ロケとか、もしくは早朝ロケとか、または早朝ロケの話・・・。)のでドキリとしたのだが、その1/60秒後、俺はその願ってもない話に飛びつく事にした。「修理代は多分2万円くらいで済むと思うんだけどどうよ?」「ええ、もちろん引き取らせてもらいます!」
その4〜5日後だったか。俺の手許にエアーキャップに包まれたRTS2とモータードライブが届けられた。中古カメラなのにも拘わらずメーカーの伝票が付き、エアーキャップで包まれている様はまるで中古店でデッドストックを買ったような心持ちにさせてくれた。何よりも壊れやすい事で有名なコンタックスを修理直後の素性がはっきりした状態で使えるのが嬉しかったものだ。それがモータードライブ付きで2万円少々。こんなに安い買い物は後にも先にも経験出来ないだろう。
で、俺はその「2」に当時持っていたディスタゴン28ミリをつけて軽いスナップに愛用した。RTS系はとにかくシャッターボタンが浅いのが特徴で、現行の「3」よりも「2」はより瞬発力が高かった。慣れてしまうと「3」ですら遅いと思えてしまうのだから恐ろしい。しかしだからと云って間違ってシャッターが切れてしまうようなことはなく、絶妙のシャッターフィーリングを持ったカメラだったと言えよう。撮影に「半押し―レリーズ」という2段階の操作が必要なAFカメラでは絶対にこの味は出せまい。話は別になるがコンタックスのAX(同社初の量産AF機だ)に触れた事があるのだが、あれはAFながらなかなかの切れ味だった。最近のNシリーズなどにはまだ触っていないけれど、そうした味が残ってくれていると嬉しいと思う。
何よりも「2」はシンプルなのが嬉しかった。革張りのコンパクトなボディー。そしてシャッターボタンのすぐ脇にある露出補正ダイヤルとISOダイヤル。今思えばかなり珍しい、巻き戻しクランク基部に付けられたシャッター速度ダイヤル。こんなに小さいカメラなのにスキのない機能性があり、かつデザインがシンプルというのはやはりポルシェデザインの為せる業なのだろう。シャッターダイヤルがファインダーを覗いた時にボディーの左側にあるということは自然にカメラを両手でしっかりホールド出来ることにもつながる。そこまで考えて設計されていたとしたらまさに驚きだ。
さて、そうして気に入って使っていた「2」だったのだが、大学4年だかの時に池袋の質屋に流してしまった。まったく不覚としか言いようがないのだが、理由を考えるとより切なくなる。いや、そればっかりは秘密にさせておいて戴きたい・・・。もう一度欲しいかと言われれば勿論欲しいのだけれど、1982年発売のカメラ。しかもコンタックス。壊れた時の事を考えると、見ているだけにしておいた方が良さそうだ・・・。それにしても最近のコンタックスのラインナップに手動巻き上げのカメラがないのは残念だ。ふと気付くと「S2」も無くなってるし。でも「RX」は残ってるし。どういうセンスなんだろうか・・・。
・コンタックスRTS3
これは前職の師匠が使っていたカメラだ。今になって思えばあの人、俺がコンタックスを使っていたから張り合って急にコンタックスを使い出したのではないかというフシがある。もともとがニコマートから始まって、以来F3PやらF4・F5、サブカメラにはFE2などを使っていた生粋のニコン党だった彼が突然コンタックスRTS3とAXにレンズ4本だかを揃えだした時には何事かと思ったものだ。それでしまいにはコンタックス645まで導入してしまったのだから謎だ。やたらとコンタックスの話を俺に訊いてきていたからそのうちやるな、とは思っていたのだが、常々俺に「写真はレンズではなくライティングだ」と言っていたポリシーは何処に行ったのだろうか?それでいて、普段の「つまらない」撮影の時にはニコンを使っているくせに、ギャラの高い仕事になるとコンタックスを持ち出すという意識が気に入らなかった。真のコンタックス党ならばどんなつまらない取材ものや小さな切り抜きのカットの時にもコンタックスを使うべきだと思うのだ。事実、そういうカメラマンを俺は知っている。まあ相当、若林という貧乏人がコンタックスを使っているのが気に入らなかったように見える。
このカメラは「2」の節にも書いたとおりコンタックスの35ミリ銀塩1眼レフカメラのフラッグシップ機なのであるが、なんと価格が35万円(ボディーのみ)。前にも書いたかも知れないが「ST」購入の際にも候補に上ったのだがこの値段では到底無理。あまりに高価すぎて、周りの人間が使っていても羨ましいという気にさえならなかったものだ。マグネシウム合金をふんだんに使ったボディーは1150グラム。まあニコンF5よりは軽いのだけれど、買ったところでしょっちゅう持ち歩く気にはなれないような気もするし・・・。まあ前職の頃の俺にとってはカメラバッグの重石にしか感じられなかったものだ。大体あのカメラを使う層にとって、秒間5コマのモータードライブが内蔵されている必要があるのだろうか?「2」と同じくモータードライブ外付け式にした方がカメラ自体の魅力はアップするように思う。
しかしまあ、何度も何度も「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」と書いてきたのだが、この「3」についてはさほど憎さは感じられない。というのも「2」を譲ってくださったカメラマン氏がその後すぐに「3」を買っていたからである。彼の「3」は購入してわりと早期にシャッター幕がバラバラになって交換の憂き目にあったそうで、コンタックスユーザーも楽ではないなと思ったものだ。周りの人々が言うにはあの有名な「バキューム機構」(フィルム面の浮き上がりを防ぐために、シャッターを切る瞬間にフィルムを圧板側に吸引して平らにさせる機構)が悪かったのではないかという事なのであったが、真偽のほどは不明だ。
まあ何はともあれ、大メーカーの多くがマニュアルフォーカス一眼レフカメラのラインナップを縮小させている現在。そして当の京セラからはオートフォーカス一眼たるN1やらNデジタルが次々に発表される中、RTS3を今でもラインアップさせている京セラの侠気に感謝したい。それは我々カメラマニアに「いつでも新品が買える」という希望を与えることにつながるのだから。これはとても大切なことだ。MFのフラッグシップ機はニコンにもキヤノンにももうないのですぞ。
(来週につづく)
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