CEOのカメラ思い出話
(12)「俺のじゃないカメラ達・パート3」の巻
こんだけ書いてもあと12台も残ってるさ・・・。今暫くのご辛抱を・・・。今月1杯かかるかしら・・・。
・ニコンF5
F4の時にも書いたが、これこそ仕事用カメラの極み。まったく愛も夢も希望も感じられないカメラなのである。異論はあろうが、ニコンF4・F5はクルマで言えばまさに商用車。ハイエースやキャラバンと全く同列の、まさに「カメラを手段としない、使う為のカメラ」に他ならないのである。全く隙のない機能。そして仕事用なのだからと割り切った重量と価格。趣味には全く必要のないカメラだと言えよう。まあしかし、そう断じては余りに素っ気ないので、俺がこのカメラについて感じた事を少し書いてみたいと思う。
何より発表当時に驚かされたのはメカニカルなシャッター速度ダイアルを廃し、電子的ダイヤルによる操作に移行した事だった。皆様ご存知のように、F4以前のニコンの軍艦部には大きなシャッターダイヤルが鎮座してその存在感を誇っていたのであるが、ニコンのブランニュー・F5にはこれが無かったのである。シャッター速度と言うのは言わずと知れたシャッターが開いている時間の事なのであるが、従来のカメラの場合これをシャッターダイヤルの上面に記された「1・2・4・8・・・」という秒時の逆数を表示に合わせてグルグル回して合わせる物なのであった。しかしこのシステムにも限界があったのである。ダイヤルのサイズによって、指定出来るシャッター速度に制限が出てきてしまうのである。先にシャッター速度の例として挙げた「1・2・4・8・・・」なのであるが、当然もっと細かい精度でのシャッター速度が必要となる場面がプロにはある。カラーネガフィルムや黒白フィルムではそのような細かいシャッター速度の指定は必要ではないのだが、プロが使うカラーリバーサルフィルムではわずかな露出の差で違いが出るため、こうしたシャッター速度への要求は従来からあったものなのだ。具体的に言えば、この各秒時の間を更に1/3に細かくした物が使われるのである。すなわち、先の例と同じ範囲を示すと「1・0.7(秒)・2・3・4・6・8」となり、これを従来のアナログ式のダイヤルで表現するには非常な大きさのダイヤルが必要となるため現実的ではない。と、いうわけで最近主流となっているのがこれを液晶表示に置き換えたタイプの物なのであるが、これをあの保守的なニコンが、しかも最高級機に導入するという点に俺は驚きを禁じ得なかったのである。F4〜F5の対抗馬であるキヤノンの「EOS−1」シリーズでは大分以前から採用されていたもので特に目新しいものではなかったのだけれど、遂にニコンもここまで来たか・・・という気がしたものだった。それからRGB測光。これも効果がはっきり分かるものではなかったが衝撃的な機構だった。写真の撮影の為にはまず環境の光の量を知り、それに応じた絞り値とシャッター速度を求める必要があるのだが、これを知るためのカメラ内蔵センサーは従来、色の違いまで認識していなかったのだ。だから本当はさほど明るくない場所なのに赤や黄色などの彩度の高い色の被写体を撮影しようとするとカメラが騙されてしまい、必要以上に暗く(明るいと思うから牽制してしまう訳だ)写ってしまうという事がままあった。このRGB測光は色まで検知してより正確な露出値を出すという触れ込みで、それは驚いたものだ。しかし後継機や他のメーカーのカメラに採用されない所を見るとどうだったのだろうか・・・。という気もしてしまう。何よりもこの機構、一番露出の難しい「真っ白」「真っ黒」には対応していないという点が悔やまれる。このRGB測光は特定の色には反応するのだが、無彩色に対しては従来のセンサーと同じ働きしか出来ないと言うのがケチのつきはじめか・・・。
まあ予算に余裕のある方は買って絶対間違いないカメラだと言う事だけは間違いないのだけれど、俺はどうかなぁ・・・。でも最近の1眼レフ式デジカメの50万60万という値段を見ているとF5クラスでも随分安い印象がするからまあいいのではないか?(答えになってない・・・)フイルム式カメラのハイエンド機って安いと思う昨今である。
・マミヤM645スーパー
先に書いた「マミヤ645/1000s」の後継機である。これは前職の時の師匠が使っていたカメラなのであるが、コレに関してはひたすらウラブタを開けてしまった思い出しかない。
ハウススタジオ、というのをご存知だろうか。多くは郊外に建てられた1軒家であり、オシャレな家具やら広い窓などを備えた正しく「ハウス」な「スタジオ」で、イメージ写真やファッション写真の撮影に使われる所なのであるが、ここでの撮影は熾烈を極めるのである。通常のスタジオにはホリゾントがあり、被写体はすべからくそこにあって撮影されるという不文律がある訳なのだが、ハウススタジオは写りを重視した単なる一軒家なので、撮影中の移動が頻繁に行われるのだ。しかもプロの現場ではただ被写体が動けばいいわけではない。衝立と呼ばれる大きな反射/遮光板、業務用大型ストロボ、カメラ1式に3脚、そしてそこまで撮影してきたフィルム・・・これをシーンが替わるたびに可及的速やかに移動させて次のショットに入る―この繰り返し。カメラマン氏は気分次第で次々に「河岸」を替えてゆくだけでいいのだから気楽なもの。メイク氏やスタイリスト氏も場所が変わっても動かす物なぞさしてないから気楽なものだ。しかし・・・カメラマンアシスタントは血のにじむ思いでこの一連の力仕事をこなさなければならないのである。一刻を争う仕事。機を逸すれば怒号が飛び、拳も飛んでくる状況の中で、一番呪われた瞬間というのはフィルム交換の時だ。このカメラ、前々から述べているあの120サイズ・ブローニーフィルム仕様なのだ。詳しくは述べていなかったがこのフィルム。撮影出来る枚数が少ないので頻繁な交換が必要となるのである。(645判で16枚/本)よってモデル(人物)の撮影の際には平気で20本、30本を使う事になるのであるが、この間にどのマガジンにフィルムを入れたのか分からなくなってしまう事が多いのだ。(話は前後してしまうのだがこの種のカメラには「マガジン」という、フィルムを予め詰めておけるパックというか、そういう物があり、チェンジを迅速にする事が出来るのだ)で、その惨事は起きる。裏蓋を開けた俺の網膜を射る黄色の裏紙・・・。何度目にした事だろう。勿論黙っていても現像上がりの時にはバレてしまうのですぐに自己申告する羽目に陥るのだが、何度経験してもあれは悪い思い出だ・・・。本当にこのカメラでは操作性の良さが裏目に出て(?)こんな事故を何回も経験したものだ。遠場のロケなんかだともう目も当てられぬ・・・。
しかし、カメラ自体は本当に頑丈で、マミヤならではの角張ったボディーも今となってはご愛敬だ。最近の同シリーズよりも一つ前のコレの方がルックスはいいと思うのは俺だけではあるまい。マミヤのカメラだからきっといま中古で買っても安心して使える筈だ。何かプロ仕様なのに隙があって、そこが可愛い奴なのだ。
(来週につづく)
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