第17回

 
 (先週からの続き)
 そんなこんなで我々は売店の混雑を避け、学校の目の前(とは言っても、建物から門までの距離が100メートル以上ある所沢校舎の事、その距離感は推して知るべし)にある酒屋で昼間からしばしば酒を買っては飲んだものだ。その酒屋の裏には何だか古びたカプセル販売機(ガチャポン、と呼ぶアレだ)やらアーケードゲーム機なんかがあったりして、不良大学生のたまり場としてはまさにベスト・ロケーションな感じだったのだが、そこで俺達は地べた座りで酒に酔ったのであった。なにしろ人っ子一人歩かない新興住宅地の事、それを咎めたり、好奇の視線で見る人は皆無だった。あれは実に楽しい思い出。昼間から酒を、しかも外で飲むなど甚だ不謹慎な事だと知ってはいたのだが、その禁をあえて破る喜びがあったもんだ。まだ大学2年生だったからな。そのまま朝から缶酎ハイを飲むオヤジになっちゃいけないぜ>俺。
 俺達の飲酒のフィールドは外だけでなく聖域・暗室にも広がって行った。写真を真剣になさっている御仁には「何と!暗室で酒を!」と呆れられることだろうが、まあしばらく御静聴願いたい。バカな写真学生の若気の至りなのである。
 それはある夕方の出来事であった。必修授業の「写真基礎1」を終えた俺と友人数名は、数ある暗室ブースの一つに集結し、他愛のないバカ話に花を咲かせていた。「○○ってさー、絶対サイボーグだよねー。」とか、「この引伸しレンズ盗んでも絶対バレないよねー。」とか、まあそんな話をしていたと思いねえ。そんな和やかな雰囲気の暗室に悪友2人が乱入してきたのである。手には言わずもがな、缶ビール数本が入ったビニール袋を携えて。
 俺達は一瞬ドキリとしたが、何しろそこは密室である。過去にはここで御懐妊遊ばされ、その膨れた腹を孕ませた彼氏が写真に撮って卒業制作にしたという伝説も残っているのだ。それはさておき、グズグズしている俺達を尻目に、彼らはシュポシュポと缶ビールを開け始めたのだ。そして「お前ら、飲みが足んねえんだよ!」などと、俺達にビールを当然のごとく飲ませようとしたのである。結局…というか当然のごとく…俺達はそのキリンラガーに酔いしれた。酒屋の裏で飲む酒よりも旨かったのは何故だろう。背徳の悦びか。それとも暗室の疲れからか。そんなこんなで、俺達はしばしば酔眼で航空公園行きのバスに乗っていたのである。それにしても話は変わるが、暗室でHするというのは写真学科生みんなの憧れである。誰もがしていないしていないといいながらも、学内に彼女・彼氏がいる御仁ならば誰も自信を持って否定することは出来ないはずだ。あんな密室で、あんな事やこんな事を・・・。「4×5のフィル現」をしているといえば例え教授といえども入ってこれないのだから、その中で行われていた行為については推して知るべし、なのだ。俺?秘密。

 当時の俺達のたまり場は「アートセンター」なる大層な名前のついた写真と放送学科が入っている建物のロビーだった。「アーセン」と略される事の多かったこの建物、本当に殺風景で、所沢の田園の中に建つには余りにも嘘臭い代物だった。「アート」で「センター」だよ?あんた六本木のスタジオじゃないんだからたいがいにしろよ。次回はそんなアートセンターの話を御紹介。(つづく)


 メール

帰省ラッシュ