恍惚コラム...

第166回

 幾つ歳をとっても、許せない事がある。幾ら経験を重ねても、相容れない事がある。とは言っても例の如く堅苦しい話を始めようと言うのではなく、実はそろそろ歯医者に行かねばならない時期が来てしまっているのだ。来てしまっていると言うよりもまさに今日、俺はそこに行かなくてはならないのだ。妻に急かされて。日曜日にも拘わらず。

 流石に年齢を重ねるにつれあの音には慣れたものだが、あの音を発するタービンが自分の歯に当たる瞬間というのはどうしても戴けない。微妙に香ばしい風味が口の中に広がり、回転が頭蓋に共振するあの不快感は皆様にも同意頂ける所だろう。しかる後に口を濯がされる時のしみる事と言ったら。これを修羅場と呼ばずに何と呼べというのだろうか。

 実はまだ何処かが痛むという段階ではないのだ。しかし性根の曲がった俺の親知らずは何と真横に生えていて、その隙間が食べかすをそこに呼び込むのだ。そんな右の親知らずは昨年に抜いてしまったのだが、生き残った左側がマズイ。最近流行の「歯間ブラシ」なるものを使うと面白いように歯垢が取れるのだ。下卑た話で恐縮だが、今まで俺はあんなに太い針金が歯の間に入ることなどとても信じられずに敬遠していたのだ。しかしいざ入れてみるとこれが凄かった。筆舌に尽くしがたい程の黄色く臭い(時には黒い!)歯垢がまさに掬い取るようにどんどん取れるのである。歯医者嫌いの俺もこの状況を見て流石に重い腰を上げようという所なのである。

 その他にも現状、冷水に当たるとしみる箇所もいくつかあるし、昨年あたりに埋めた箇所が欠けている部分もあったりして、これはどう見ても歯医者適齢期なのである。皆様の最近の歯医者体験は如何なものだろうか?

 クラスの優等生に限って「虫歯ゼロ」で表彰されていた小学生時代(俺は全然ダメだったが。頭の良さと歯の丈夫さは比例するものなのだと本気で思っていた)。お釣りをくすねる余録のために進んで歯医者に通った中学時代。あの頃はまだ時間が有り余っていたからきちんと歯医者にも通えたものだが、高校生になった頃くらいからは全く定期的に歯医者に通う時間など無かったのである。部活に学校に仕事に追われて、痛くてどうしようも無くなったときにしぶしぶ行く所。これが俺にとっての歯医者という所なのだ。そうするといきおいその時その時の重症度は高まっていく。それを自分でも承知しているからさらに腰が重くなり、悪循環が続いていくわけだ。それをまだ痛まないのに行こうというのだから、我ながら進歩したものだと・・・思うのだ。

 まあ歯医者の話はこれくらいにしておくことにしよう。書いているだけで何だか奥歯に物が挟まったような気がしてきたので。話題を変えることにしたい。

 先週末あたりから違和感のある景色が至るところで展開されている事には皆様お気づきだっただろうか?否、青いジャージを着た人が電車の中で群れているとかそういう話ではないのだ。先週末に新興住宅街独特の拓けた道を車で走っていた俺なのだが、「体育館こちら」とか「第○○回運動会」なる看板を至る所で目にしたのである。そう、学校週休2日制の余波で運動会がこの時期になっているらしいのだ。

 これはどういう理由なのだろうかと会社の子持ちのマダムに聞いてみると、何だか9月には他の行事が多いから年1回の6月にまとめてしまうのだとか。学校行事を削減してまで授業時間を確保しようという意図がそこにはあるようなのである。何たるちや。

 端的に言って、俺個人的には授業時間が減ることが問題ではないと思うのだ。全く。むしろ集団で何かをさせるという時間を提供する、これこそが学校生活に於ける要諦ではないかと思うわけだ。いやいやでもいい。いじめが起きても多少のことなら構わない。色々な考えや嗜好を持った同世代の子供達を渾然一体にして、権力の下で無理矢理にでも同じ行為をさせるという事が以後の人格形成に資するところであるのに、机に座らせる時間を確保するために学校行事を減らすのだったら学校なぞ全く不要だと思うのだが如何だろうか。それこそ今の時代、ネットを利用してノルマをこなし、あとは好きなようにさせて置いた方が余程潔いと思うのである。子供達もきっとそれを望むだろう。

 近頃、近所の学習塾の生徒が増えたような気がする。行きつけのコンビニの3階にその塾はあるのだが、以前は停まっている自転車もまばらだったのだが5月に入ってからはもう大混雑。コンビニの客が入る余地も無いほどに自転車が停めまくられ、学校から直接やって来たと思しいジャージ姿の中学生が群れているのである。着替える暇もないのかと呆れるばかりだ。

 学校週休2日制は行政の教育放棄だという論がある。蓋しその通りだなと思うのである。9月の空に万国旗が揺れる、そんな光景を甘美さと共に想い出す世代はもう古いのだろうか。その答えはあと何年すれば見えるのだろうか。どうか私学に通っていた者が「勝ち組」などと呼ばれる日が来ませんように。
 



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