第159回
前職を通じて俺は写真部員、そしてその部長はカメラマンにはなれないという「箴言」を体現し、以来写真部という言葉、そしてその言葉を標榜するこのサイトに対しても正直気恥ずかしさを感じていたところなのだが、やはり毎年この時期になるとこの話題に胸がときめいてしまうのはやはり隠せない習い性だ。写真とは関係のない職に身を置き、他人様の撮った写真を見る一方という立場になってみると次第にその傷も癒されて来、また再び写真部の、俺にとっての黄金時代を蘇らせてみたいという図々しい欲が出てきてしまうのだ。そもそもそうしたささやかな欲を満たす事さえ前職では禁じられていたから、このサイト、そして俺の本当の魂の癒しのために、写真という職から一歩引いたことはあながち間違いではなかったと今では思えるようになった。 さて、毎年毎年この時期になると写真部についての思い出話を書くのが恒例になっているのだが、今年はもう無事に新入部員が入られたということで、写真部の運営に関するいくつかの問題について簡潔に語ってみたいと思う。独善的なセンチメンタリズムに終始する事をここに明言しておくが、後進の皆様、そして同好の皆様がお読みになって何らかの清涼感を残せるように書き進めてゆきたいと思うので、平にご容赦願いたい。 思えば高校卒業から8年が経過した。今やただ見かけるだけとなった学生服に袖を通していた頃が俺にもあったということが信じられないくらいなのだが、その記憶の糸を辛うじてつなぎ止めているのは他でもない写真部にまつわる思い出の数々である。確かに授業には出ていた。学食でメシも食った。しかし学生服の質感や匂いに思いを致す時、どうしても写真部にまつわる記憶がともに想起されるということは、いかに俺の中で高校=写真部であったかということを如実に物語っている。写真部において匂いといえばあの種々の薬品の匂いということになるわけだが、それだけではなくあの部室において喫食した様々なもの、あるいは雨に濡れた通学鞄の匂いなども含めて写真部の思い出として、ひいては学生服の思い出として収斂されてゆくのは面白い。制服とは、それを着ている人間には何の感慨ももたらさないところが皮肉なのだ。脱いではじめてそれに対する愛着を知る事が出来る。制服を現役で着ている連中はカラーを外してみたり、ボタンをきちんと締めないで着ていたりしているが、今こそその不自由さに耽溺しておくべきなのだ。これは学生服云々についてのみ言うのではない。人生のわずか20分の1程度の時間を我慢できないようでは禄な人間になれないという事なのだ。 話が逸れた。本題に入ろう。 (1)部室が掃除されていません。 A:かつてはOBが見かねて掃除しに行っていたという部室。また、創部当時にはとっても神経質な先生のおかげでイスすら置かせて貰えなかったという部室。それが今では魔窟状態に。由々しき事態です。もはや当番制も罰則規定も無効なので一切その事は忘れましょう。それならいっそ「掃除禁止令」を敷くのは如何?極限まで散らかった部室でプリントすればもう作業性の低下は必至。ネガにもホコリが付きまくり、とても他人様には見せられない状態に!!・・・そうならないと掃除の大切さは伝わりません。また、OBを呼び集めて遺物を持って帰らせるのも一案です。 (2)新入部員にはどんなカメラがいいですか。 A:1眼レフで、写れば可。安ければ尚可。そもそもわれわれに決定権はないのですから、望遠レンズしか持ってないなどの例外を除けば上がとやかくいう筋合いではありませんね。レンズとフィルムとシャッターの開閉機構があれば写真は写ります。 (3)新入部員にはどんなフィルムがいいですか。 A:トライXで万全。言い古されたセリフですが、ある程度粗めできめの揃った粒状性と増感適性は教育用にもってこいです。これを使いこなしてから他のフィルムに移っても遅くありません。 (4)新入部員に写真を教えたいのですが。 A:写真は教えるものではなくて写ってしまうもの。要はその中からいいものを選ぶ目を養う事が大切なのです。それには先ず枚数を撮らせる事。カメラを常に持たせる事(これは(2)ともかかわりがあって、あんまり高いカメラだと持ち歩けなくなるのです)。個人的には昔の様に長尺フィルムを部費で支給するのが良いと思います。高校生の物欲を刺激するものが現代には多すぎます。自分でフィルムを買うのを待っていてはいけません。部費を上げてでもフィルム・薬品・印画紙は支給制にしないと写欲は高められません。ええ。俺が入った頃はガメ放題でした。 (5)新入部員に現像・プリントを教えたいのですが。 A:正当な処方を守っていればまず失敗する事はあり得ないDPE。まず教える側が緊張感を持って行わないとその凄みは伝わりません。昔から言い尽くされたことではありますが温度と時間。現像において変動する要素はこれしかありません。それから良く出来たプリントを普段から見ておく事も肝要です。黒は黒、白は白に見えるプリントを作るために印画紙の号数もこまめに変えてみましょう。基本は2号(中間調)です。国産の印画紙では3号が中間調だと言われますが、あくまでも2号です。 (6)部室には来るが、関係ない事をしています。 A:あそこは暗室なのです。他の事をする場合には前室に追いやるのがスジなのです。つまり4時になったら絶対に電気を消すなど、それなりの演出は欠かせませんね。前室をきれいに片づけて、机をひとつ置いてみれば? (7)作品展の写真が足りません。 A:受験も写真展も段取りが大切。日々の積み重ねが成果を生み出します。毎日写真を撮れなどとヤボな事は言いません。先人の知恵は素晴らしいものです。「有りネガ」−暇な時・撮影会の時にまとめ撮り。要領のいい先輩達はみんなコレで切り抜けてきたのです。 (8)写真を撮っている時間がありません。 A:そう言う時は自写像に限ります。それも出来るだけアップで。間違っても教室の遠景やスナップなんかを写真展に出してはいけません。これだけでご飯3杯はいけます。全員が自写像で写真展なんてイイじゃないですか。トーンの少ない写真はプリントも楽ですよ〜。 (9)写真を撮るのが面倒です。 A:あなた、シャッターボタンが押せなかったら箸も持てませんぜ・・・。いっそのことファインダーものぞかずにシャッターを切ってみると面白いかも知れません。それから自室の三脚の上にカメラを据えて、気が向いた時にシャッターを押すとか。んん〜、結構アートかも・・・。 (10)写真が嫌いです。 A:そういう人が居てもいい。それが写真部の懐の広さです。義務さえ果たしていれば仲間と部室が手に入る・・・。全然問題ないんです。義務さえ果たしてくれれば。 (11)(部室の)機材が古いです。 A:クラシックでいいのはカメラ本体だけ。特に精密さが求められる時計や引き伸ばし機、フォーカススコープなどは不特定多数の人間が使うものですから定期的なメンテナンスや買い換えは必須ですね。その理由を明記して生徒会や顧問に嘆願書を出しましょう。正当な手段をもってすれば多少の無理は通るでしょう。また、その他の娯楽に供される機器類は古くなったら思い切って捨てることが肝要です。そうしないと新たな篤志家は現れないものです。 (12)飲み物は何がいいでしょうか。 A:名糖レモンティー。 (13)食べ物は何がいいでしょうか。 A:チキンラーメン。 (14)モテますか? A:プライベートの時の身なりの問題です。それから普通に語れる趣味を2、3用意しましょう。その上で写真が上手な事は大いにプラスになるでしょう。また、男同士が好きな方にとって写真部とは願ってもない場所です。 (15)文化祭で客が集まりません。 A:今こそデジタル化の恩恵を受けるべきだと思います。デジカメで記念写真を撮ってその場でプリントアウト。もう何処の誰を撮ったのか分からなくなる必要はありません。また、かねてよりの宿願・喫茶店の開業も急がれるところ。正直、写真を見せれば勝ちなのですから、何らかの口実をつけることを恐れてはなりません。 ・・・如何だったろうか。自問自答だったのでまだまだ足りない質問も有ったかと思う。そんなわけでこのコーナー(?)への質問を募集します!!それでは新入部員の皆様、3年間を愉快に過ごしてくださいね〜!! |