第153回
年度末。忙しいのは入札だ。業界によって入札がある業界とない業界があるのは承知の上だが、少なくとも俺がいる清掃の業界には入札が欠かせない。所謂「三国人」と呼ばれる人々が清掃を「仕方なく」行っていた時代とは違い、今では大卒、院卒、また「わざわざ」他業種から転職してくる人まで居るこの業界である。もともとは官庁も頭を下げて誰かに掃除をしてくれと頼まないとだれもそのような仕事を喜んでやってはくれなかった時代があったのだが、今では全く逆で、掃除だけで数十億円も売り上げを上げている会社がいくつもあるし、昨今の不景気でこの業界に攻めてくる異業者が後を絶たないのである。運送屋やら不動産屋やらが清掃は少ない元手で金になるということで続々と荒らしに入って来ているのが現状である。また、官公庁としてもそのような業者を呼びたがっているような節もある。 さて、そんな中で絶対に避けては通れないのが所謂「○合」だ。その場に寄り集まって値段を調整しているのではないのだから「○合」ではなく「協力のお願い」だと関係者は言うものだが、入札の直前には「○(○だ)」と称してフ○○クスで「1回目XXXXX○ 2回目XXXXX○ 3回目・・・・」などと具体的な○○を○ってきてそれを○○書に○かせると言うのだから、これを○合と言わずに何と形容するべきだろうか。こうした○○を決定するのは先年度までその事業を請け負ってきた業者の仕事だ。これを業界では「チャンピオン」と呼ぶ。当然来年度もその会社が落札するという前提で交渉は進められる。指名競争入札ではまずどの業者もこの入札に関してどこの業者が指名に掛かっているか把握できるために、そのチャンピオン業者はその全ての業者に連絡をし、やんわりと圧力をかけるのが常識になっているのだ。 今の話は「指名競争入札」、すなわち予め市町村、都道府県、国に「当社は官公庁の仕事を受けるだけの内容がありますよ」という申請書を出してある業者の中から官公庁がしかるべき業者を選定して指名を掛ける場合(大体3〜10社)の話である。それぞれの役所によって違うが大体どこの業者が指名を受けて応札するかが丸分かりなために、業者同士の調整は避けられない事態となってしまう。 では公募式、或いは掲示物件(役所が業者を指名せずに、資格のある業者が希望すれば業者数に限りなく応札できる、郵便局はほぼこの格好だ。ときには100社以上が入札会場に集まる事態となる)の場合はどうだろうか。これは結果としてもの凄いダンピングを引き起こす基になる。どこの業者が出てくるかほぼ把握不可能、しかも現在受託中で専属の従業員を抱えている−となった場合「チャンピオン」に残された道はダンピングしかない。どう見ても年間1300万円(例:平日に4人をパートで常駐雇用、さらに月1回のワックスがけなど)は見なければ赤字になってしまう物件なのに180万円程度で落札された例も先日あった。月割りにすれば15万円程度、これは意地以外の何者でもないだろう。それでもそうした業者は今現在雇用している従業員・現場数を守るために赤字覚悟で落札せざるを得なくなるのだ。また、さいたま新都心の某ホテルの清掃業務が1円で落札されたのも記憶に新しいところだ。 官公庁の清掃業務の職員雇用には難しい面がある。何しろ契約自体が1年契約(複数年契約はまずない)なため、もしひきつづき契約が取れなかった場合には労働争議が起きる場合があるからだ。現にそうした人たちが作る労組もあるやに聞いている。しかしそう言われても、お役所の決めた事なのだからということで片づけるほかない、と言うのが雇用者側の大方の認識だろう。そうでなければ、ダンピング。組合が押し掛けてくるよりは赤字を出した方がいいという会社もあるだろう。 また、ダンピングを呼ぶ原因としてはこんな例もある。ある程度大規模な建物の入札説明書にはこのような文言があることが多い。「過去5年間の間に継続して1年以上3,000?以上の建物の清掃管理を行った実績を有する事」これがどのような意味だかお分かりだろうか。並み居る既存のチャンピオンはその地位を守る事ができ、そうでない業者はチャンピオンの下請(ちなみに官公庁の事業の再委託はまず禁止されている)で生きるしかないという事がここに明記されているとは言えないだろうか。3,000?といえば結構な建物である。どの業者にも「初めて」ということはあるはずだ。これは新興業者の発展を妨げるものだ。そこでその大きな建物に打って出るために新興や中小の業者は踏み台として適当な物件を法外な価格でダンピングすることになる。そうしなければより大きな物件に行けないのだから仕方がない。その気持ちは至極自然なものだろうと思う。 東京都の入札説明会で、「都民に誤解を与えるような行為・・・名刺交換なども気を付けて行ってください」と先日言われた。お役所としても現状は良く分かっているのだろう。 その席上、電子入札を導入するという話も出た。これは確かに素晴らしいものだろうと思う。お互いに業者名が分からず、かつ役所もきちんと積算(見積もり)をして無茶な価格での応札は受け付けないという格好にすれば○合も出来ようが無くなる。本当にスリリングで楽しい入札がやって来る日を期待する今日この頃なのである。 |