第149回

 久しぶりに寒さが沁みる2月の日曜日。俺は朝寝を妻に起こされてしぶしぶコーヒーを湧かし、9時前のテレビに向かった。するとそこに映し出されていたのはご存じNHK名古屋制作の「中学生日記」。あの関西襟(関西〜九州でしか採用されていないといわれている、真っ白で大きなセーラー服の襟の呼称。その筋のマニアしか使わない語ではあるが)は相変わらず健在で、まあ最初はその絵柄を楽しんでいたのだが話の筋が見えてくるに従って段々居たたまれない気分になってきた。

 曰く、その話の内容とは次のとおりである。ちょっと奥手の女子が主人公で、まわりはみんな付き合っているからあたしも男の子と付き合わなくちゃという気分にさせられている。その子の親しい女友達は次々に彼氏をチェンジし、「つなぎよ、つなぎ」と宣うようなタイプ。そんな中、主人公はその親しい女友達の元彼氏と付き合う運命に。周りの女子は軽い気持ちで男の子と付き合っているのだから自分も軽い気持ちで付き合おうとする彼女だったが、他のカップルとのトリプルデートなどを経るうちにどうも自分の考え方では上手く行かない事に気付く。男は男で無理に軽くしなければと思っていて、実はヘビーな恋をしたいと思っている。そうして過ぎてゆく中で主人公は段々と彼氏の事を好きになっていくのに無理に軽い気持ちで付き合わねばと思う余り、その彼氏の人となりを理解できないまま深入りはするまいと交際6日目で別れを切り出す。ある日、2人きりで居る所へ携帯電話が鳴り、ひそひそと男が話しているのを聞いて主人公は「振られる前に振ってやる」と別れを切り出したわけだ。しかし、その彼氏は「もっとお前の些細な事を知りたいのだ」と食い下がり、主人公は別れの言葉を撤回する・・・・。

 というお話。中学生日記伝統の素人臭い演技やせりふ回しはもう諦めるしかないとしてもだ。国営放送の教育用(?)番組にこのような話の筋が出てくること、しかも民放ならそのままラブシーンにまで持ち込めそうな妖しげなシチュエーションが映し出されているところ(夜の公園&ブランコ&男のマフラーを寒いからって女の首に巻く)に俺は隔世の感を覚えるとともに日本は変わったなあ、小泉さんが何もしなくても構造改革なんだなあとの思いを新たにしたわけで。山口百恵が「あなたに女の子の一番大切なものをあげるわ」と歌っていた1970年代は今いずこってなわけで。

 どうなんだろうか。パラサイト・シングルやらアダルト・チルドレンが増殖する現代。成人式も名ばかりで、日本人は20歳では到底成人としての自覚も能力もないとされる現代。最近の10代は恋愛とセックスは一人前だがその他の能力については子供同然と巷間思われているのに、NHKが率先して手軽な恋愛を中学生日記で取り上げても良いものだろうか。

 ヤリたい盛りの中学生を捕まえて「するな」と強制することはいかにもたやすい事だろう。NHKにしてみればこの筋に寓話的な要素を盛り込んだつもりなのかも知れない。確かにこの話には「流行に乗ってただ異性と交際するのではなく、お互いの人間性を知って自分の成長に役立てましょう」という意味が込められているように見えなくもない。しかし、である。この話が終わった後に「名古屋の中学生140人(?)に聞きました!」というアンケートの集計結果が放映されていた事を書くと、この論の流れはまた違ったものになってくる。

 子細までは失念してしまったが、要は「調査対象の中学生のうち、異性と交際した事があるのは約8割、交際期間は1ヶ月以内が半分程度、1年以上続くものは1割にも満たない」とのアンケートのグラフが画面に映し出されるに至って、俺は一体何の意図がこの話に込められていたのだろうとまた考え込んでしまう。どうせお前らは1ヶ月くらいしかもたないのだから深く考えるな、か?それとももっと真面目に長期間付き合えよ、か?教育という観点、また先に俺が推測した「お互いの人間性を知って自分の成長に役立てましょう」という観点から見れば後者のメッセージを採る方が正しいのだとは思うが、硬い寝起きの頭には結局「最近の中学生はススンでるのねえ」という感想しか残らないのは如何なものかと思った。

 まあそもそもNHKの番組だからと言って必ずどこかに教育的な意味が含まれているという俺の思いこみも悪いのだと思う。この内容が民放で放映されていたならば全く毒のないさわやかな青春ドラマなのだから。NHKとて視聴率を取らなければ立ちゆかない。前時代的な教育ドラマだけでは視聴者が付いてこないがための対策だとすれば納得出来る。だったらもっとこなれたタイトルや舞台にしませんか。「しゃべり場」などというネーミングセンスをお持ちなら。


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