(筆者注:筆者は以前、確実にカメラマンを目指していた人間であります。このことをお含みになって読んでいただければ幸いです。この文章は写真愛好家・カメラマンにとって不快な内容を含みます。そのような文章を読みたくないと思われる方は直ちにブラウザを終了、あるいは他のページに移ってください。なお、この注意を無視してお読みになった上での苦情は受け付けませんのでご注意ください。これは筆者自身への戒めの意味を込めた文章であります。何卒ご了解下さい。)
連載「カメラマンにならないためのいくつかの方法」
(3)実家を出よ、職場は都内だ。
写真という、漠とした方法で糧を得ようとするときに、まず必要なのは生活の基盤である。矛盾した物言いだと思われる方もあるかもしれないが、まずは読み進めてみて戴きたい。写真を生活の基盤にしようとしているのに、まずその前に生活の基盤が必要だというのは確かに奇妙な話だ。しかし、数多い、しかも年若きカメラマン志望者の中には大まかに分けて2種類の境遇があるということをここでは確認しておきたい。それは、「実家に住んでいるか否か」という点についてである。
実家にいるという事−それは家賃からの解放を意味し、食い詰めても最低限の食事は出来ると言う事を意味している。全ての人間の親が健在であるということはまずあり得ないのだが、親が健在でないにしても自分の生家に住まっているという事はカメラマンになるかならないかの大いなる分水嶺になるのだと私は思っている。勿論、実家に住んでいる方がカメラマンの道により近いというのが私の結論だ。何をどう言い換えてもこれは私の負け惜しみになってしまうのだが、アシスタント時代の薄給に耐えるには実家に居る方が絶対的に有利であるし、カメラマン側としてもアシスタント雇入れの際には実家にいる事を条件にしている者が多い。それも当然であろう。カメラマンの仕事の殆どは東京都内にあり、その家賃の高い土地でアシスタントが暮らすための部屋の家賃としては月に最低5万円は見なければならない。中堅クラスのフリーカメラマンが給与として支払うのが月10万円として残りは5万円弱。そこから食費や光熱費を差し引いたら貯金など望むべくもないわけだ。(仕送りなどを受けていない、という前提でこの文章は書かれている。)ここにおいて一人暮らしのカメラマン志望者が直面する一つの大きな壁が出現する。それは即ち、「自分の修練の為のフィルム代が出ず、独立するための機材を予め揃えておく事も出来ない」という厳然たる事実だ。住み込みのスタジオマンや、社員カメラマンならともかくフリーカメラマンを目指す者にとってこれはまさに死活問題だ。この状態を漫然と続けて行く事によってアシスタントの一部は飼い殺しにされ、はたまた目標を見失ってドロップアウトして行かざるを得なくなるのだ。兎角世間を知らないと「夢だけで食べて行ける」的な美談を信じ込みがちなのだが、あまり長すぎる夢は陳腐化する。アメリカなどでは「アシスタント専業」という立場がきちんと確立されており、アシスタントの組合なども設立されているそうだが、ここは日本。アシスタントは目的地ではないのだ。しかも高価な機材を持っていないと始まらないのがカメラマンという商売である。もし、これをお読みになっている方の中に現在一人暮らしでアシスタント稼業をなさっている方が居られたら、直ちに実家に帰るなり、深夜のアルバイトを始めるなりして―親が許すなら親に買わせてもこの際いいだろう―下克上の為の機材一式を揃えておく事を強くお勧めする。イバリの効くカメラを持って世間に出ないと、結局再びレフ板を持たされる羽目になるから。今の「師匠」と良い関係を持ち、機材を借りられるような円満な辞め方を画策しておくのも良いだろう。
いかなる美辞麗句で飾り立てても結局必要なのは金と暇である。実家が貧しかったという歌手や俳優や作家などの話は多く聞くが、実家が中流以下のカメラマンというのはかなりレアではないかと思う。どう転んでも数十万円の機材(中判・大判も必要だとなれば百万円コースだ)を要し、それを揃えても次には感材(フィルム・印画紙などの事)の費用が自動的にかかってくるカメラという憎らしい存在を御しきれるのは財力をおいて他にない。この点についてのご意見は無用である。こればかりは誰もが言いたくても堂々と言えなかった真理なのだから。古今東西の著名なカメラマンの経歴を見てみると、どの家も商売を営んでいたり、資産家だったりするのは決して偶然ではないわけだ。
だから、自分の生家が中流以下だと自認するカメラマン志望者はくれぐれも実家から離れない事だ。実家から離れても苦労しないだろう、と思う人はその時点ですでに中流以上なのだからこの際は論外である。努力で財力をカバーできると信じるのもよし。しかし最終的に貧乏人の勝負は厳しい。私こと貧乏人の失敗談を解釈するのは読者の皆様ご自身の心一つである。カメラマンになるもならないもまた然り。だが、カメラマンにならないための方法としては、どんどん出ていって、好きなところに住むのが良いのだというのが本稿の目的。
(来週に続く)
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