この時期になると、いやがうえでも高まってくるのは「新入部員獲得」熱である。今や殆ど訪れる暇もなくなったあの写真部部室に俺は、現役の皆さんが俺を知っていようがいまいが関係なく思いを馳せている。今やこれは片思いに似た感情であるとも言えよう。学生時代、或いはプータロー時代には足繁く部室に足を運び、何歳も年の離れた若人たちの姿を網膜に焼き付けては写真部の発展に微力ながらも貢献してきたと自負している俺ではあるが、近頃はめっきり訪れる暇もないのである。今までより近い場所に住んでいながら。恐らく最近の若い皆さんには俺の記憶というのは殆どないのではなかろうか?これを指して俺は「片思い」と言ったのである。相手はこちらの事など何とも思っていないと知りながら焦がれる気持ち。俺もまだまだ若いのである。
さて、昨今は若い人たち(特に女子高校生)の間で写真がブームであるという話を以前(昨年あたりか)に書いたことがあったが、近頃は如何なものであろうか?以前ほどプリクラプリクラと騒がれることもなくなり、若手の「大物」写真家も大体出尽くした感のある昨今、以前ほどの熱気は感じられないのが実情だろう。しかし、今度はクラシックカメラブームが起きてきた。赤瀬川源平やら田中長徳やらの啓蒙活動がようやくボディーブローのように効いてきたといったところだろうか。書店の然るべきコーナーにはその手のムック本が置かれているし、青年向けの情報誌の表紙に平気で「ライカ」「コンタックス」の文字が踊るようになった。俺が大学時代には講義の教室でしか聞かれなかった「銀塩写真」などという単語を一般人が平気で口にするようになった事にはカルチャーショックさえ覚える。だがしかし、そうとは言っても高校に入学したばかりの層にそうした「クラカメ」熱が浸透しているとは思えないし、彼らの世代を狙い撃ちにする物欲の対象は他にも夥しくあるのであって、それらが直ちにカメラの方になびくとは到底思えないのである。よって、極私的な意見ではあるが、かつてのような高校生の、「写真自体の」ブームはピークを過ぎたと俺は感じている。
そんな中、川越東高校の写真部のサイトの掲示板に、次のような事が書かれてあった。
「今日4月の9日の部活動発表についての集まりがあったのですがそのときに、『文化部は最近人数が減ってきているが、もし5人以下になったら廃部または統合だから、頑張って勧誘するように』といわれてしまった・・・。うちの部もかなりヤバイ状況です。最低4人は獲得せねばなりません・・・。事前調査では、写真部への入部希望者は0人だそうです。あぁ〜最悪の結果をむかえるのでしょうか・・・。」
この直後に同サイトの管理人・菅原氏のレスが付くのだが、これは「写真の経験者が引き続き写真をやりたいと思って写真部に入ってくる事はまずない。昨年の勧誘活動を怠ったしわよせが今に来ている」という意味のレスであり、これについての異議は俺にとっても全くない。今から思えば新入部員勧誘行為というのはまさしく片思い的な行為なのであって、これを楽に行おう(あるいは無しで済ませよう)と言う事は絶対に出来ないのである。野球部やサッカー部ならいざ知らず、ここは写真部なのである。野球部が木村拓哉でサッカー部が竹野内豊なら、写真部は・・・(敢えて喩えない事にする)。―誤解の無いように言っておくが、俺は写真部のそのような所まで呑んだ上で愛しているのである―その玉石混淆(これも自虐的な表現だが)な男たちが松嶋菜々子なり藤原紀香なりを狙って争うのだから、モテない方にはそれなりの努力なり策なりが絶対に必要だ。
その策として、様々な方法が写真部開闢以来工夫されてきたのだが未だに決定打はない。一昨年あたりか、前述のスガワラ氏が主導で新入部員勧誘ビラを1年生の教室全てに配り歩いたという話があったが、未だにこれを越える方法は開発されていないのが現状である。だが、そうした行為に効果が無いからと言って諦めるのは絶対に間違っている。神懸かりではないけれど、そうした事に費やす我々の時間は何かの作用を周りにもたらすのだと俺は信じている。勧誘ビラ然り、部活動説明会でのパフォーマンスまた然り。こういう部分でしか我々は写真部をアピールすることが出来ないのであるから、そこにこそエネルギーを注ぐべきである。まさか新入生を全員捕まえて勧誘するわけにも行かないのだから。また同時に、そういった活動を通じて写真部内部の「熱」が高まるのも見逃せない効能であろう。だからわれわれは、見えない結果、効果のためにであってもその時その時に出来うる事を考えて実行しなければならないのである。それが去年と変わりばえしないものであって、効果が客観的に実感できなくても。毎年勧誘ビラ?作らないよりは数万光年の意識の違いがあろう。
部活動加入の自由化を責めるのはたやすい。また昨今の中学生の無気力さを責めるのはたやすい。しかしこの苦境を乗り切ってこそ、写真部17年の歴史に新たなるページを刻む事が出来るのではなかろうか。「頑張って勧誘するように」と言われたという事は、少しぐらい無茶をしても構わないのだと解釈せねば。学校側としてもパンフレットに書く部活動の名前が減るのは不名誉な事だろうし、写真部はそれなりに成果を挙げている部活動であるし、何よりもしっかりとした専用の部室を持った唯一の部活なのであるからして、それほどネガティブに捉えなくても大丈夫だと俺は思うのだが。
心の中で俺はいつでも盛大にローリングシャッターをしているので、ともかく最善を尽くして欲しい。4月9日。
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