ちょっとカメラに凝り出すとハマるのがレンズ道だ。カメラ雑誌を見ながら35ミリ欲しいだの、サンニッパ欲しいだの、写真少年の夢は尽きない。技術の進歩によって最近のレンズは本当に素晴らしい。35〜350ミリや17〜35ミリなど、一昔前には絶対に考えられなかっだズームレンズがあるし、コンピュータ設計によってどのメーカーのレンズを使っても「駄目!」というものはなくなった。レンズの設計とは実は数字との戦いで、何とか硝子の屈折率がどうのこうの、第何レンズの曲率が云々などということを計算するために昔はカメラメーカーに何百人もの計算要員が雇われていたという。彼らが総掛かりで計算しても1本のレンズについて検討するのに数ケ月の時間を要したというのだから全く恐れ入る。それも今やコンピュータの仕事になって、レンズメーカーはかつてないサイクルで新製品を送り出せるようになっているのだ。まあ要するに、何を買っても大丈夫なんだから、好きなレンズを使ったら、ということ。しかしそれではあんまりなので、一般的にレンズにはどのような物があるのか書いてみたい。〈35ミリカメラについて)
○広角レンズ・・・読んで字の如く、広い範囲が写るレンズ。18〜35ミリのレンズがこの中に含まれる。コンパクトカメラの多くがこの35ミリレンズを装備していることからも分かるように、スナップや風景などの撮影に向いている。また特性としては被写界深度(後述)が深いのでラフなピント合わせが可能になり、また画面全体にピントの合った写真が撮れる。
○標準レンズ・・・50ミリレンズの事。およそ肉眼に近い写り方をするので自然な写真が撮れる。ほとんど全ての撮影に適している。
○中望遠レンズ・・・85〜105ミリレンズを特にこう呼ぶことがある。本格的な望遠撮影はできないものの、程よく、丁度肉眼で何かを見つめたときのような視角が得られるので、人物のポートレートあるいは風景を部分的に切り取りたいときに重宝なレンズだ。
○望遠レンズ・・・135ミリ以上のレンズの総称で、強い引き寄せ効果でスポーツ写真や報道写真に使われる。
大体、大ざっぱにレンズの分類をしてみたが、このほかに最近普及しているレンズとしてズームレンズがある。これも大まかに分けると広角ズーム、標準ズーム、望遠ズームの3種類になる。ズームレンズは手元ですぐに、自分が足を使わなくてもフレーミング出来るので楽なのだが.この味はまさに麻薬的で、これを覚えると怠け者になってしまうので注意が必要だ。あくまでズームは手元で構図を決めるためにあるのではなく、同時に数本、例えぱ28ミリ、50ミリ、70ミリそれぞれの単焦点レンズ(ズーム出来ないレンズのこと)を持つためのものだと考えたはうがよい。そうしたほうがそれぞれの焦点距離の特性を掴みやすく、上達も早いのだ。
さて、被写界深度って何よ?と先程から気になっている皆さんも居るだろうから少し書いてみたい。例えばカレンダーの風景写真などで、手前から奥のほうまでバッチりピントの合った写真、あるいはアイドルのグラビア写真などでモデルにだけピントが合い、背景がドーンとボケている写真を見たことがあるだろう。この前者を「被写界深度が深い」、後者を「被写界深度が浅い」というのである。この使いこなしが写真の味わいに意外と影響をもたらすので注意したいところなのだ。汚ない背景でモデルを撮らねばならなくても、上手にボカせればイイ写真になるし、物の隅々まで描写したいとなれば被写界深度を深めてやれぱよいのだ。
では、どうすれぱその被写界深度とやらをコントロールできるのだろうか。そのカギは、使うレンズの焦点距離と、その絞りと、被写体までの距離にある。
「露出」の項で詳しく書くが、レンズには「絞り」という金属製の羽根が入っていて、その開口径をコントロールすることによって.レンズにはいる光の量を決めている。手近なレンズで確かめるとよく分かるであろう。その径を広げることを絞りを「開く」、逆に狭くすることを「絞る」と言うのだが、この絞りを絞れぱ絞るほど、ちょうど理屈としてぱ近眼の人が目を細めるとよく見えるのと同じように被写界深度は深まるのだ。
また、レンズの焦点距離は短ければ短いほど被写界深度は深くなり、同じレンズでもピントを含わせる被写体が遠くにあればあるほど被写界深度は深くなる。
つまり、最も被写界深度を深くできる条件は「広角レンズ・絞り込み・遠景」であり、逆は「望遠レンズ・絞り開け・近景」なのだ。この関係を何となくでも良いから知っておくと、いろいろな被写体に応じたピントのコントロールが出来、表現の幅が広がること請け含いである。主要なものだけ写したいとき、例えぱポートレート撮影のときは85ミリや100ミリくらいのレンズ(もちろんズームレンズの望遠側でもよい)を使って絞りを開け気味に撮ればよいし、また記念写真やスナッブ撮影のときは24ミリや35ミリ位のレンズ〈ズームレンズの広角側)で絞り込んで撮れぱ記録性の高い、情報量豊かな写真になるのだ。
ところで、望遠レンズになれぱなるほど手ブレを起こしやすいということはご存じだろうか。短い棒で手前の豆をつつくのは簡単だが、1メートルもある棒で遠くの豆の一つを狙うのは難しいのと同じように、遠くの風景の一部を切り取る望遠レンズはふらふらしてしまうのだ。これを防ぐためにはなるぺく高速シャッターを切ることと、シッカリした三脚を使うことだ。尚、この際のシャッタースピードについて慣習的に言われている法則に「焦点距離分の1」のシャッタースピードならブレにくいというのがある。例えぱ20ミリレンズなら1/20秒(実際にはこのような設定は出来ないので1/30秒)、50ミリなら1/50秒(同じく1/60秒)、100ミリなら1/100秒(125/1秒)ということである。まああくまで慣習的に言われている目安に過ぎないので盲信は禁物だが、「このシャッタースピードで大丈夫かな」という時に役立てて欲しい。遠近感の再現についてもレンズの焦点距離は関係している。同じ物を同じ大きさで写した場合、広角レンズは背景をも広く写し込むために遠近感が強調され、望遠レンズになればなるほど逆の傾向が強くなる。この遠近感のことを「パースペクティブ」と呼ぷ。先に述べた標準レンズはこの点においても標準と言え、自然なパースペクティブを見せる。以上の特徴を押さえたうえで、各焦点距離のレンズの用途についてもう一度考えてみたい。
18ミリ・20ミリ及びそれ以下の焦点距離のレンズ
肉眼以上の視野をもち、狭いところを広く見せたり、奥行きのない場所での撮影に特に有効である。パースペクティブが極端に誇張されるため、時に奇異な印象も与えるが、それを利用した表現も考えられる。例えぱ真上からしゃがんだ人物像を写せぱ頭は大きく、身体は小さく写るので面白い。乱用するのはどうかと思うが、善し悪しである。特に深い被写界深度を持ち、画面全休にピントの合った(パンフォーカスという)写真も撮れる。建築、風景、室内でのスナップなどに活用できるが、余りにも広い範囲が写り過ぎるために、きちんと画面を構成しないと「何も写っていない」写真になってしまうので初心者には難しいかもしれない。
24〜35ミリのレンズ
前項のレンズは特に「超」広角レンズと呼ばれることもあるが、こちらは普通の広角レンズである。丁度両目で見るような視角が得られるので使いやすく、初心者にはこちらのほうがお薦めかもしれない。超広角レンズほどではないにしても深い被写界深度とパースペクティブが得られる。常にこのくらいのレンズをカメラに付けておき、スナップ用にするととても重宝である。俺も高校生の頃、何となくズームレンズはカッコ悪いと思って24ミリレンズばかり使っていたことがあった。記念写真、広報写真など人物の近景や風景写真に向いている。
50ミリのレンズ
全てにおいて中庸の性質をもったレンズで、丁度人間の片目の画角を持っている.パースペクティブも中庸、被写界深度も中庸で広角や望遠レンズのような面白さはないが全てのレンズの基本となるものである。もし俺が無人島にカメラとレンズ1本だけ持って撮影してこいと言われたら迷わず50ミリを手にするだろう。引けぱ広角的に写るし、寄れば望遠的に写るので使いこなせぱ実に面白いレンズなのだ。ポートレート、暗所の撮影(50ミリレンズには大口径のものが多い・・・後述)に俺はよく使うが、1本持っていて絶対損はしないレンズである。最近のカメラは最初から標準ズーム付きで売られていて、単焦点50ミリなんか見たこともない、という御仁も多いと思うのだが、値段もまた中庸な50ミリレンズ、1本握ってみたい。
85ミリ、100ミリのレンズ
いわゆるポートレートレンズと言われる類のレンズである。浅目の被写界深度と適度に圧縮されたパースペクティブ、そして人物の半身像を撮るのに適当な撮影拒離が得られるので、ちょっとポートレートでキメてみたいときには欠かせないレンズである。しかしこう書いたからといって広角レンズをポートレートに使うなという法はないし、逆にこの種のレンズをスナップに使うなという法もない。ここに挙げているのはあくまで「主用途」ということなので、話半分に間いておいたほうがよいぞ。この種のレンズにも大口径のものが多く、カール・ツァイスブラナーT*85ミリF1.4のような神話的なレンズもある。主にポートレート、風景の部分的な切り取り、舞台写真などに週する。
135ミリ、あるいはそれ以上の焦点距離のレンズ
浅い被写界深度と強い引き寄せ効果で風景の遠景やスポーツ写真に使われる。ポートレートで極端な背景のボケが必要なときに300ミリクラスのレンズが使われることも多い。遠近感の圧縮された平面的な写真(圧縮効果という)が撮れるため、広角・標準レンズでも撮れる所を敢えてこの種のレンズで撮ると、都市の人混みやビルの建て込み具含が強調できる。
一いかがだろうか。これを参考に(なるのか?)レンズ選びをしてみていただきたい。でも、最初は標準ズーム1本で十分だと思う。今、どの焦点距離を使っているか意識しながら使えばの話だが。
一眼レフカメラは、すでにご存じのようにレンズ交換ができるのが特徴だが、ここで注意しなければならないのは同じメーカーのレンズしか装着出来ないという点である。ニコンにはニコンレンズ、キャノンにはキャノンレンズというように、レンズの座金(マウントという〉が共通でないと取り付けられないのた。但し、タムロン・シグマ・トキナーのようなレンズ専業メーカーはそれぞれ各種カメラメーカーのものに対応したマウントのレンズを作っているのでそれを使うこともできる。同じマウントのカメラを持っている人同士ならレンズの貸し借りが出来るので、部内で同じマウントに揃えてしまうのも一法だろう。余談ながら、大型カメラにはマウントというものはなく、代わりにレンズボードという板を使うのだがこれはほぼ各社共通で、アダブターも豊富に用意されているのでメーカー間の相互乗り入れが自由自在なのだ。一眼レフカメラにもそんな時代が来ないものだろうか。